椎間板ヘルニアとは

椎間板ヘルニアとは

椎間板ヘルニアは、背骨と背骨の間でクッションの役割をする椎間板が何らかの原因によりはみ出し、周囲の神経を刺激することで、腰や足に痛みやしびれの生じる疾患です。
非常に多くの患者さんが椎間板ヘルニアを患っていますが、椎間板ヘルニアの一般的な症状は腰痛よりもむしろ坐骨神経の領域すなわち太もも、ふくらはぎ、足のしびれや痛みであることはあまり知られていません。
臀部から太もも外側、ふくらはぎ、足の指の痛みやしびれが典型的な症状です。いわゆる坐骨神経痛の原因の多くが椎間板ヘルニアなのです。

古代から坐骨神経痛はありふれた疾患として医療従事者に知られてきました。それは坐骨神経の走行に沿って臀部から下肢に放散する痛みのことを言いますが、臀部から下肢に至る様々な症状に対して無差別にその言葉は使われています。
いわゆる坐骨神経痛の原因は様々ですが、MixterとBarrは椎間板が周囲の組織を破って脊髄神経を圧迫することがその主たる原因であることを1934年に突き止めました。
神経放射線学的な研究では坐骨神経痛の症例の85%は椎間板の障害に関連することが確認されています。また、椎間板ヘルニアの重い症状としては歩行困難の他に膀胱直腸障害があります。
これは、排尿・排便障害とも換言でき、悪化すると失禁が現れます。 椎間板ヘルニアは軽症のものであれば自然に治りますが、1~3か月以上症状が続く場合は、自然に治らないか、治るとしても回復まで相当の期間がかかる可能性があります。
最近は、低侵襲の治療法が複数選択できるようになっています。中でも体に侵襲が小さく、早期であれば極めて高い治療効果が期待できるPLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)が改めて注目されています。

脊椎(せきつい)、椎骨(ついこつ)

背骨は医学的には脊椎と表現され、椎骨と呼ばれる骨が積み木のように連結して形成されています。
脊椎は、首、背中、腰、臀部など部位によって呼び名があり、頸椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙椎(せんつい)、尾骨(びこつ)に分けられます。頸椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の椎骨で構成されており、それぞれ英語の頭文字を取ってC1~C7、Th1~Th12、L1~L5と表記されます。仙椎は同じくSと表記されます。


椎間板、髄核(ずいかく)、線維輪(せんいりん)

重なり合っている椎骨と椎骨の間に椎間板が存在します。椎間板の中心は髄核と称されるゼリー状の構造物があり周囲はコラーゲンを豊富に含んだ線維輪で層状に覆われています。


椎間板の役目

私たちの背骨は24個の骨が積み重なってできていますが、その骨と骨の間にあってクッションの役割をする軟骨のような構造物を椎間板といいます。
椎間板は、脊椎にかかる負担を軽減するクッションの役割があり、脊椎がスムーズに動く(背骨が曲がる、伸びる)のをサポートしています。


椎間板ヘルニア

この椎間板の構造が老化や怪我、運動など繰り返される負担に耐え切れずに壊れ、外にせり出したり、椎間板の内容物が外にはみ出したりしてしまう状態を椎間板ヘルニアと言います。”ヘルニア”とは”はみ出す”という意味です。このヘルニアが神経を圧迫してしまうと痛みやしびれ、力が入りにくいなどの症状を引き起こします。これが一般に知られている”椎間板ヘルニア”という状態です。
理論上、椎間板ヘルニアは首から腰までのどの場所にも発生する可能性がありますが、構造上、身体運用上の偏りから、腰と首に多く発生します。
椎間板ヘルニアが腰椎(L1~L5)や仙椎(S)に発生した場合、多くは腰痛、下肢の痛みやしびれ(腰痛がないこともある)、足に力が入りにくい、尿、便の出が悪いなど、首の場合、首が回らない、首・肩・上肢の痛みやしびれ、細かい手作業ができないなどがよくみられます。


椎間板ヘルニアの症状は自然に治ることもあると言われていますが、長期間症状が改善しない場合や、重症化した場合は医療機関で治療を受けることをお勧めします。
手術的治療法としては経皮的手術(レーザー他)、内視鏡手術、顕微鏡手術などがあります。

椎間板ヘルニアの症例について

椎間板ヘルニアによる各症状はヘルニアが発生する部位で異なります。
はみ出した椎間板によって圧迫を受けた神経が伸びる領域に症状が出るのです。

腰椎5番-仙椎1番間の椎間板ヘルニア

正中やや左寄りにはみ出る椎間板

頸椎(C1~C7)にヘルニアが発生すると(頸椎椎間板ヘルニア)、肩、首、腕に症状が生じます。
腰椎や仙椎(L1~L5、S)にヘルニアが発生すると(腰椎椎間板ヘルニア)、腰や脚に症状が発生します。
腰椎周囲の脊髄から末梢に伸びる神経は腰から臀部、脚、足へと広がるので、最も頻度の大きい腰椎椎間板ヘルニアの症状は腰から足先までの広い範囲で症状が発生し得ます。


椎間板ヘルニアの原因

腰痛の原因は 脊椎、椎体を取り巻く筋肉、骨盤の異常によるもの、内臓に疾患を抱えるために起こるもの、心因性などさまざまですが、椎間板ヘルニアによる腰痛はどのような機序で起こるのでしょう。

椎間板は、背骨の椎体と椎体の間でクッションの役割をしています。そして、椎間板はもともと老化が始まるのが非常に早い器官であり、劣化しやすい性質をもっています。 過度な加重、慢性的な姿勢の異常、加齢などにより椎間板の外殻にあたる線維輪に亀裂が入り、その中に納まっている髄核というゼラチン上の組織がその亀裂を通って外にはみ出てこようとします。

これが後方に突出するようになると脊髄、脊髄神経根(運動・感覚の神経線維が脊髄に入る前に集まるところ)が圧迫され、しびれ、痛みを感じたり、運動障害を起こしたりするようになります。

なぜ椎間板ヘルニアになるのかについては諸説ありますが、その多くが自身の抱える生活習慣が原因です。不慮の怪我など、突発的に大きな力がかかる事例を除いて、椎間板ヘルニアの多くは日常生活の癖によって発症しています。

治療を希望されて来院される方のほとんどは、背骨にずれや傾き(局所的な強い彎曲、生理的彎曲の消失)、過体重、筋力不足などの要因を一つ以上持っています。立っている姿勢、座っている姿勢ともに”姿勢が悪い”状態は四六時中ある偏った個所に荷重がかかる要因となり、ヘルニアや椎体の変形の原因となります。

体重が増す、筋力が低下する等も、骨格そのものにかかる負担が増加する要因となり、椎間板や背骨には大きな負担です。 椎間板ヘルニアによる症状が一旦改善しても、同じ症状を繰り返しやすい要因がここにあります。傷みやしびれなどの症状が改善しても椎間板ヘルニアが治癒したということではありません。神経への圧迫が多少軽減し、炎症がある程度治まって症状が軽減しても、いつでも同じような状態になりうるような状況からは完全に脱することが出来ていないのです。

椎間板ヘルニアは、大掛かりな外科的治療を受けたとしても、ある程度の割合で再発します。それは個人の生活習慣の問題に原因があるからです。どの治療方法であっても再発する可能性は全く”0″には出来ないことを理解して治療に臨む必要があると思います。