細胞分裂を監視する「細胞周期チェックポイント」
正常な細胞は、必要に応じて、「細胞周期」と呼ばれる一定のプロセスを経て分裂・増殖します。 細胞周期は「間期(interphase)」と「M期(M phase)」に分けられます。
◆細胞周期
<間期>
- G0期:細胞が分裂を止めている休止期
- G1期:細胞が大きくなる
- S期:DNAを複製する
- G2期:DNA合成から有糸分裂まで細胞が成長する
<M期> 細胞の成長が停止し、活動エネルギーは分裂に集中する
細胞周期の中には、異常事態を検知するための「細胞周期チェックポイント」が存在し、G1/Sチェックポイント、S期チェックポイント、G2/Mチェックポイント、M期チェックポイントの4つが知られています。 これらのチェックポイントでは、
- DNA損傷チェック:遺伝子(DNA)に損傷がないか?
- DNA複製チェック:DNA複製が正常に行われているか?
- スピンドルチェック:有糸分裂で複製された染色体の分離が正常に行われているか?
といった監視が行われており、異常を感知すると、「チェックポイント制御因子」と呼ばれる物質が活性化され、細胞周期を減速もしくは停止させます。 そして、その状態は異常が取り除かれるまで継続されます。 つまり、DNA損傷が検知されて細胞周期が停止した場合、DNAが修復できれば、チェックポイントの作用が解除され、細胞周期が再開されるので、細胞はふたたび増殖をはじめます。 しかし、DNAが修復できなければ、チェックポイントの作用が解除されず、細胞周期も再開されないので、細胞はアポトーシスを起こして死滅します。
「細胞周期チェックポイント」の破たんと「がん化」
細胞の生死を制御する「細胞周期チェックポイント」は、遺伝情報を正しく伝達するために欠かせない存在です。 チェックポイントの制御には複数の「がん抑制遺伝子」が関与しているのですが、何らかの理由でそれらの遺伝子が不活性化されると、チェックポイントの機構は破たんし、遺伝情報の伝達ミスを防げない状態(遺伝的に不安定な状態)になります。 「遺伝的不安定性」は、がんの主要な特徴であり、細胞の異常増殖など、いわゆる「がん化」を誘発します。 つまり、細胞周期チェックポイントの破たんが、がん細胞の無制限な異常増殖をもたらすのです。
参照:Mei-Shya Chen, Christine E. Ryan, and Helen Piwnica-Worms, Chk1 Kinase Negatively Regulates Mitotic Function of Cdc25A Phosphatase through 14-3-3 Binding, Mol Cel Biol(2003), 23, 7488-7497