幹細胞の至適投与数
幹細胞による再生医療を安全にかつ効果的に行うためには、細胞の質と適当かつ十分な細胞数の二つの要因が大切になります。
すなわち、例えば細胞数が非常に多くても細胞の質が極端に悪ければ治療効果が落ちるばかりか、時には身体に負担がかかる場合があります。また、最近では細胞数が過量だとむしろ血管のトラブルが生じることがわかってきました。それらのことを踏まえて、患者様から頂いた細胞投与数についての疑問にお答えします。
「私の今回の幹細胞投与量は8,000万個でした。友達は2億個の投与を受けられたと聞きました。私の細胞数が少なかった理由は何ですか?」
患者様への回答以下のように、自家由来幹細胞療法において治療効果を高める上で大切な要因として、細胞の個数のみではなく、細胞の質が無視できません。最近では数よりもむしろ質が大切であることがわかっています。よって、今回は細胞数が平均よりは少なめであっても、培養し得るベストの質の細胞を投与しており、治療効果は期待できます。ただし、次回の投与においては、今回の細胞の状況を鑑みて以下の③の条件面でさらに工夫して培養を進める予定です。
幹細胞投与数にかかわる条件
幹細胞の投与細胞数に関わる条件として以下の3つが大きく関わります。
① 幹細胞の増殖・分裂能力② 継代数(培地の入れ替え数)
③ 血清・培地環境
それぞれについて解説します。
① 幹細胞の増殖・分裂能力
幹細胞の増殖・分裂能力は個体差があります。②③の条件が同じであっても、そもそもご本人の増殖能や分裂能が培養可能な細胞数に大きく影響します。
② 継代数(培地の入れ替え数)
継代数が多くなればなるほど細胞数は増やせます。ただし、継代数が増えれば細胞の質も劣化します。高品質の細胞を培養するには継代数は4ないしは5回くらいがベストと言われています。その継代数以内で、5,000万~2億個程度の細胞まで増やせれば、その投与により高い治療効果が期待できるとされています。因みに2億個を超える細胞数になると毛細血管に与える負担が増えることが最近懸念されており、多ければ多いほど良いわけではないということが改めて指摘されています。
③ 血清・培地環境
細胞の培養には良質の血清と優れた培地が必要になります。血清は安全を確保するために原則として自己血清を使用します。自己血清にも個人差があるので濃度調整をしながら使用しますが準備できた血清の量によっては十分な濃度が得られない場合があります。そのような場合に培養環境をさらに良くするために人工血清を使用する場合があります。また、当クリニックで使用している培地は、数ある培地の中で最も増殖分裂能を高められるものを選択しています。