幹細胞について①:幹細胞とは

幹細胞

 幹細胞は皮膚や血液など絶えず細胞が入れ替わる組織を保持するために、新しい細胞を再び産生して補充する能力を持ちます。具体的には以下の2つの能力を持っています。


①皮膚、血液、神経、血管、骨、筋肉など細胞を作り出す能力 (分化能)

②自らと同じ能力を持つ細胞に分裂することができる能力 (自己複製能)

様々な種類の幹細胞


幹細胞は二分される

① 多能性幹細胞  Pluripotent Stem Cell

・体のどのような細胞でも作り出すことのできる細胞
・様々な組織幹細胞も作り出すことができる
   ES細胞(胚性幹細胞)
   iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell)

② 組織幹細胞

・皮膚や血液などの決められた組織や臓器において
  -消失した細胞を補う新たな細胞を造り続ける細胞
・再生できる細胞は限定的
  -造血幹細胞であれば血液系の細胞のみ
  -神経幹細胞であれば神経系の細胞のみ

多能性幹細胞の種類

ES細胞(胚性幹細胞:Embryonic Stem Cell)

 胚は、受精卵が数回分裂し、100個ほどの細胞のかたまりとなったもの。この胚の内側にある細胞を取り出して、培養したものがES細胞。
 ES細胞は他人の受精卵から作られた細胞であるため移植すると拒絶反応が生じる問題があります。また、生命の源である胚を壊して作ることに倫理的問題があると指摘する方もおられます。

ntES細胞 (nuclear transfer Embryonic Stem Cell)

 受精前の卵子から核を取り出し、皮膚など他の体細胞の核を移植して胚(クローン胚)を作り、 胚の内側の細胞を取り出して培養したものがntES細胞。
 ntES細胞は、患者自身の体細胞の核を持つため、拒絶反応はおきないと考えられています。ただし、卵子の提供を必要とするという問題はあります。

iPS細胞(人工多能性幹細胞:induced Pluripotent Stem Cell)

 皮膚など体のなかにある細胞にリプログラミング因子と呼ばれている特定の因子群を導入すると 細胞がES細胞と同じくらい若返り、多能性を持つことが発見されました。(山中教授が発見)
 このように人工的に作った多能性幹細胞のことをiPS細胞と呼びます。iPS細胞は胚の滅失に関わる倫理問題もないうえ、患者自身の体細胞から作り出せば、拒絶反応の心配もないと考えられています。ただし腫瘍化の課題が完全に解決されていません。

ES細胞

  • ・ヒトiPS細胞の樹立を発表するまで、再生医療研究のもっとも中心的な存在として注目された細胞。
  • ・ESとは「Embryonic Stem Cell」の略。 「胚性幹細胞」と訳されます。
    胚の内部細胞塊を用いて作られる幹細胞で「万能細胞」とも呼ばれます。
  • ・1981年に英国のエヴァンスがマウスES細胞を樹立したのがはじまりです。
  • ・発生初期の胚の細胞からつくられるため、受精卵に非常に近い能力を持ち、体を構成するあらゆる細胞へと変わることができます。
  • ・適切な環境さえ整えれば半永久的に維持することができるのが特徴です。
  • ・維持培地から、各組織を培養する条件に近い環境へ移すと、その環境に応じてさまざまな細胞に分化していきます。

ES細胞の課題

①拒絶の問題

ES細胞は半永久的に維持でき、目的の細胞へと分化させられます。
➡再生医療のソースとして大きな期待が集まっています。
 しかし、ES細胞からつくられた細胞や臓器は移植される患者さんにとっては「他者」であり、臓器移植と同様に拒絶反応の対象となります。

②倫理問題

ES細胞は「胚」を破壊しなければを造れません。元となる胚は、不妊治療の際に不要になった「余剰胚」から提供者に同意のもとで用いられています。
 胚を用いることに倫理上の違和感を持つ人も少なくなく、再生医療への応用も日本では長年禁止されていました。今後新たに作成するES細胞について再生医療に用いられる体制の整備が必要と考えられています。

iPS細胞

  • ・体の細胞は全て一つの受精卵に由来しており、同一のゲノムを共通に持っています。
  • ・しかし、各細胞においては必要な遺伝子以外の情報が読まれないようにゲノムにカギがかけられている。このため、血液が皮膚になったり、皮膚が心筋になることはありません。
  • ・これまで細胞核を未受精卵へと移植するクローン作成技術やES細胞の融合実験から、卵子やES細胞にゲノムにかけられたカギをはずす「初期化」の能力があることが知られていました。
  • ・山中教授らは、公開データベース情報にもとづいてES細胞や生殖細胞に特異的に発現する遺伝子を絞りこみ、遺伝子24個のセットをマウス線維芽細胞に組み込ませたところ、ES細胞と同等まで初期化された細胞を樹立することに成功しました。これが人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)、iPS細胞です。
    この24個の遺伝子から必須の遺伝子を絞りこむ実験を行い、「Yamanaka Factor」と呼ばれている4遺伝子のセットに絞りこまれました。
  • ・その後、樹立効率を上げるための導入法、別の因子の組み合わせでiPS細胞を樹立するなど、 様々なiPS細胞樹立方法が開発され、より再生医療に適した方法が何かが検討されています。
    臨床研究においては、iPS細胞の品質管理(樹立方法を含む)について、国、研究機関、医療機関が綿密に協議する必要があります。

疾患特異的iPS細胞

  • ・患者さんの皮膚や血液など、患者さん由来の組織からつくるiPS細胞を特に「疾患特異的iPS細胞」と呼びます。
  • ・疾患特異的iPS細胞は患者さんの遺伝情報(病気を発症させる遺伝子も含む)を保有しているため、その病態を培養皿の中で再現することが可能です。
  • ・そのため、希少疾患や神経難病など疾患の原因遺伝子が明確ではあるが患者数の少ない疾患、病変部位が脳内などサンプル採取の困難な疾患、もしくは病気の発生や進行が未知の疾患に対して大きな力を発揮します。
    中でも、神経難病のひとつである神経変性疾患は、何らかの要因から神経細胞が徐々に変性しその機能を失う病気で、神経細胞が新たに生まれてくることはほとんどないため、病気が進行しその機能を失う前に治療を行うことが重要になります。
  • ・医療の進歩により病態初期の兆候をとらえる技術は発展しつつあるが、その精度はいまだ充分でなく、根本的な治療法開発にはもっと早い段階での病態検出が必須です。
  • ・疾患特異的iPS細胞では、生まれたばかりの神経細胞を作製することや病態が進行する様子を観察することが可能となり、従来の技術と比較して早期の状態で病態マーカーの検出が可能となることが期待されています。
  • ・iPS細胞のこのような性質を活用した病態マーカーの探索はすでに実施されており、疾患特異的iPS細胞を用いた病態解明や新薬創出、新規治療法開発と組み合わせることで神経変性疾患の根本的な治療法開発が進められています。
  • ・また、疾患特異的iPS細胞の老化を意図的に促進させ、より早く病気の兆しを観察する方法も研究されており、個別化医療や先制医療(将来かかりそうな病気を予測して予防的な治療を行う)に対するiPS細胞技術の応用も期待されています。

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