【動画解説】再生医療の現状と課題⑥

治療成績及び今後の期待と課題(全6話中第6話)

2020年6月27日開催の院長のオンライン講演会から『再生医療の現状と課題 ⑥治療成績及び今後の期待と課題』(全6話中第6話)の内容をご紹介します。 慢性疼痛、動脈硬化、認知機能障害を対象として2019年4月から2020年3月までの1年間で100件以上の再生医療を当院で実施しています。問題となる有害事象は認めず、ほとんどの方において症状の改善が見られました。 引き続き良好な治療成果を得るため、当院では2つのこだわりを持って再生医療に取り組んでいます。ひとつは、細胞培養加工室を院内に併設していることで、採取してから培養開始まで及び培養した幹細胞を投与するまでの時間的ロスを最小限にして、幹細胞の劣化を抑えています。もうひとつは、病態に応じた投与方法を採択して治療効果が大きくなるように配慮しています。すなわち、一般的に行われている点滴や局所注射に加えて、動脈カテーテルを用いた投与や髄腔内への投与も実施しています(これらの投与法を採択している医療機関は現時点で他に見受けられません)。 また、最後に、新型コロナ感染症に対する再生医療の効果や再生医療全体の課題についても触れています。

【動画情報】

テーマ:「再生医療の現状と課題」⑥治療成績及び今後の期待と課題(全6話中第6話)
時間:19分37秒(第6話)
公開日:2020年6月27日
講演者:北青山D.CLINIC  院長 阿保義久(医師)


 


【このテーマの動画(全6話)】

第1話 ①再生医療とは
第2話 ②そもそも幹細胞とは
第3話 ③間葉系幹細胞療法のメカニズム・特徴
第4話 ④幹細胞投与のための細胞加工
相5話 ⑤安全性と治療適応
第6話 ⑥治療成績及び今後の期待と課題(このページ)

【全文】

はじめに


前のカテゴリでは安全性と適応ということについて話しました。さてもう少しですので、もうしばらくお付き合い下さい。
最後になるんですけれどもこのカテゴリーは、実際の治療成績、あとは今後の期待について触れたいと思います。

症例実績


これは2019年4月1日から2020年3月30日直近のこの1年間の我々の方の治療実績です。 動脈硬化、慢性疼痛、認知機能障害の3つのカテゴリーに分けて集計しているんですけれども、症例の数と投与回数、症例の数は合わせると大体100例前後になります。投与回数は150件程度。 このぐらいの実績があるんですが、まずは安全性に関しては先ほど申しましたように大きい事故というのは1例も起きていません。


治療の効果測定


実際それぞれ、慢性疼痛や動脈硬化症、認知機能障害に関しては、評価シート、評価方法というのがあります。 例えば、痛みに関しては症状とか疼痛に関する評価を、シート、問診で確認しています。
動脈硬化に関しては 、血流測定値、動脈狭窄度を測定する装置、あとは頸動脈、首の動脈にあるプラークといわれる動脈硬化によって起きる内膜の厚さっていうのを測定して、その動脈硬化の度合いを調べます。 時にはCTとかMRAという血管撮影をすることもあります。
認知機能障害というのは、治療効果の判定が比較的難しくてですね。ご自身が自覚して改善したというのは、中々得られることが困難であることが多いです。 ですのでご家族ですとか、回りの方の評価、あとは客観的なちょっとした簡単なテストそのようなものをして評価するという形になります。


症例1 慢性疼痛(40歳男性)


具体的な症例としては、この方は40歳の男性で、椎間板ヘルニアに対するレーザー治療を行ったんですけど、 その時、椎間板の間にちょっと出血が起きたことが原因で右下腿への、脚の麻痺右の脚が全くは動かなくなってしまったんですね。 その後症状が固定されて1年以上治療しても、全く症状が回復しない。 右足首が動かせない。この方はサーフィンを趣味としていた方で、非常に活発に運動している方だったんですけど、もちろんサーフィンはできない。 車の運転もできない。非常に不便を被られていた。
その方に2回に渡って、1億6000万から2億個ぐらいの幹細胞を投与しました。 そうしましたら、1か月後ぐらいに動かせなかった右足の関節指が普通に動かせるようになった。 これは我々ももちろんご本人も非常に驚きました。痛みを訴えていた膝の下の部分の痛みも非常に軽減して、 さらに1か月経ったら小指も動かせるようになって、サーフィンもできるようになりましたし、車の運転はもちろん普通にできるようになった。 こういう劇的な、通常の今までの医学的な常識からは考えられないような回復をきたしたというケースもあります。
この方はもともとは慢性疼痛に対する治療だったんですけど、悩んでいた耳鳴りも大きく改善してきたという副次効果が得られました。 この耳鳴りに関しては、脳神経の過剰興奮、例えば難聴に伴って中枢、頭の方の知覚神経が興奮することによって耳鳴りが起きると言われているんですけれども、 そういう神経機能がこの再生医療によって回復した可能性が示唆された例です。


症例2 慢性疼痛(75歳女性)


こちらは、75歳の女性。この方も膝の関節症に対して再生医療を行いました。 階段の上り下りができないということで、この方は投与してから2か月ぐらい経ったら、50%ほど痛みが軽減しました。2回目を投与してからは、また1か月ぐらいお時間が経ちましたけれども、80%ほど痛みが軽減して 今は階段の昇降もストレスなく可能だということです。


症例3 慢性疼痛(54歳男性)


次はこれ54歳男性と書いていますが、20代に膝の関節にタックルを受けて膝関節の損傷、脛骨骨折をきたした。 これ実は、私自身なんです。私も学生の時にちょっとスポーツをして、アメリカンフットボールで試合中にタックルを受けて膝の関節を骨折しました。 それ以後色々リハビリに取り組んだんですけれども、残念ながら膝の変形性の変化というのはもちろん回復することができません、でいろいろ筋肉トレーニングしているんですけど、 日常的に痛みもあるし、少なくともランニングやジャンプとかはできない状況でした。スクワットもできなかった。ところがこの2回、2億個前後の幹細胞を投与したところ、痛みがまず消えました。 あとは、できなかった左の脚のスクワットも可能になりました。今はもう普通にランニングも普通のジャンプもできる。まだ現時点でその状態を維持しています。


症例3 慢性疼痛 MRI写真


これは、私のMRI写真、僭越です。人工骨がここに入っているんですけど、MRIの初見上はこの治療に伴って大きく画像上の改善は得られなかったんですけれども、 私自身の知覚症状は大幅に改善しました。


適応例4:認知機能障害(68歳男性)


次は認知機能障害の方です。この方は68歳の男性で、レビー小体型の認知症で大学病院の方でずっとアリセプトという処方薬を受けていて、なかなか治療効果が得られずに、徐々に徐々に認知機能が悪化するのでこの再生医療を希望されました。 MMSEという認知機能試験を行ったところ、25。25/30ポイントとなっていますけれども、これも認知機能の低下症状が明らかなレベルなんですね。実際に100から7ずつ引いてくださいと、100、93、86、79、72と引いていくということができませんでした。 実際は100の次が86とか、その次は「私何をするんでしたっけ?」というような状況だったんです。
そのような方に、この幹細胞をご本人の幹細胞を培養して投与したところ、1か月後には、MMSE試験も改善しましたし、100からの引き算が完璧になりました。100からずっと7ずつ引いていくと、最後2なんですけど、その2までずっと連続してできるようになった。もうご本人も流石に驚きました。我々もこの回復には驚きました。
ただその後、様々な認知機能の低下に関してはまだ満足いく回復が十分得られていないので、この方は試験でのポイントの回復も改善しているんですけれども、今でも定期的に治療を続けられている状況です。


動脈硬化症 ABI推移


次はちょっと医学的な話になりますが、いくつかご説明します。 動脈硬化症の客観的な検査方法になるんですけど、ABIという動脈硬化、狭窄度の検査機器に伴う数値なんですが、 これは1を切ると、動脈硬化の病的な度合いが強いと言われています。これらの方々に注目すると、治療後2か月くらい経つと、もうほとんど1を超して、正常な状況に戻っています。 ABIが1.1以下の方がすべて治療後回復しているということが得られました。


動脈硬化症 IMTmax推移


それから、このIMTというのは、頸動脈の内膜の厚さです。頸動脈の内膜、中膜、肥厚度と呼んでいますけれども、これはプラークと呼ばれるかすが頸動脈で溜まった状態のことを言うんですが、これが厚くなってくると、そこがプラークが破れて血栓をつくったり、血管を硬くしたり、さまざまな病的な症状を作ってしまいます。これが皆さん治療を受けたら、もうほぼほぼ全例、一例だけちょっと残念ながらプラークが進んでしまったケースがあったんですけど、それ以外の方は全例プラークの厚さが改善しました。


慢性疼痛症 治療評価(生活障害度)


あと痛みに関しては、これは生活障害度ですとか、精神的な思考のダメージの具合ですとか、それらをアンケート形式で質問しています。 その回答による治療評価も、ポイントが高ければダメージが大きいという結果なんですけれども、基本的にはやはり、これもちょっと一例あまり改善しないケースがありますが、それ以外の方々は全例、疼痛、生活の障害も改善、


慢性疼痛症 治療評価(破局的思考)


破局的思考、いわゆる精神的な部分の痛みに対する感覚も改善。ですので以上の動脈硬化、慢性疼痛、認知機能症状これらに関する我々のところでの知見では、皆さん、改善が堅調であったということが言えます。


北青山Dクリニックの強み

ちょっと簡単に、軽く自慢話になるかもしれないですが、北青山Dクリニック、我々の強みとしては、こだわりが大きく2つあります。 ひとつは、細胞培養加工室を院内に併設していること。多くの医療機関にはこの培養する組織、施設を外に外注しているところが多いです。外注したからといって、それが悪いということではもちろんないんですけれども、ただ、外に細胞を運んで行って そこで培養して増やしたものを、また運んできてもらって投与する時のウィークポイントというのは、ロスタイムですね。 細胞を採取してから分離、培養するまで、例えばどんなに近いところでも数時間のずれが生じます。その間に細胞が劣化してしまうというリスクがあります。あとさらに、せっかく増やした細胞を回収してすぐ患者さんに投与するんですけれども、 細胞は回収してからできるだけ短い時間で投与しないと、幹細胞自体が生きた細胞ですので、どんどんどんどんロスしていきます。細胞自体が失われていきます。もちろん質も劣化していきます。それがほとんど時間差がない形で、投与できるかどうかということがポイントになります。外の外注施設からの幹細胞の場合には、やはり早くても半日、場合によっては1日ぐらいのズレがありますので、その間に幹細胞は20%以上ロスするということも報告されています。そのようなことがないように、我々はこの施設内にCPC細胞培養室を完備していて、いわゆる細胞、脂肪細胞を取ってから分離までの時間のロス、拡大培養した細胞を回収してから投与するまでの時間のロス、いずれも最小限に抑えています。幹細胞の劣化を抑えるということが、我々の強みなんです。
あとこちら2つ書いていますが投与方法について。点滴の投与ですとか、局所注射の投与というのは多くの医療機関で可能です。ただ例えば、幹細胞を直接その臓器の近くまで動脈のカテーテルで運んで行って、そこで投与するという合理的な方法、これを行うことができるのは、国内では今確認したところでは我々のところだけです。あと、さらに先ほどもお話した、くも膜下腔といって脊髄麻酔をする脳脊髄液、背中から脳に直接つながっている脊髄空間ですね、その部分に細胞を投与するという方法も、我々の方がおそらく初めて認可を得ています。投与方法に関してもオリジナリティが高いというところが、我々の医療機関の強み、特徴ということになります。


再生医療提供計画が新たに受理された適応疾患


先ほども9つの疾患群に関して適応を取ったというお話をしてるんですけど、慢性疼痛ですとか、認知機能障害や動脈硬化以外の神経変性疾患、こちらに書いてあるスポーツ外傷、心不全、慢性呼吸障害、慢性腎臓病、肝硬変、これらに関しては実は今年の3月に許認可を取りました。これから、患者さん方がこれらに関しての治療を希望されるということが期待できると思っています。


新型コロナ(COVID-19)肺炎への治療として


最後の方になったんですけれども、この今皆さん非常に新型コロナ、この新しい感染症であるコロナに対して、非常に戦々恐々となさっているところがあるかと思います。ようやく収束を果たしたわけですけれども、第2波、第3波が訪れるリスクというのは残念ながら否定できないですね。かつ欧米では、非常なオーバーシュート、人々の生活が乱れるだけではなくて、医療崩壊も起きていてその動画を見るにつけて我々も非常に不安になる日々を過ごしたことがあったかと思います。日本で同じようなことが起きるというのは、いま我々の感覚ではちょっと考えにくいと思ってはいるんですけども、そうは言っても決して軽視することはできません。
ただこの再生医療は、コロナ感染症に対する治療として今応用されているわけでは実際ないんですけれども、実は中国では北京の病院などで重症の肺炎のケースに対して、幹細胞の治療というのを行っているという論文が出ています。実際その報告ではCOVID-19新型コロナに対して、この幹細胞療法が非常に治療効果を得ている。重症例の肺炎の方が、全例回復したという論文報告がいくつも今でています。


COVID-19コロナ 肺炎への治療として期待大


なぜそういうことが幹細胞で起きるのかというのを理論的に考えてみますと、まずCOVID-19 の重症化というのは基本的にはウィルスが増殖するということよりも、そのウィルスの増殖に対する免疫系の暴走、サイトカインスームというご自身の身体が異常反応を起こして自分の身体自体を攻撃して壊してしまう、それによって血栓が作られたり、肺自体がめちゃくちゃに壊されたり、そういうサイトカインストーム、免疫の暴走が原因であるということが分かっています。 これが通常は軽症で済む新型コロナ感染症の中に、稀に急激に重症化したり、命を落とすような方がうまれているという理由と言われています。これに対して、この脂肪由来の間葉系の幹細胞の再生医療が、免疫調整作用というものを強く持っていることから、その肺の上皮が保護されたりとか、肺の微小環境、血流の状態ですとか、炎症反応などが改善されたりだとか、肺が重症化すると硬く線維化をきたすと言われているんですが、それが回避することができたりですとか、総合的に肺の機能を回復させることが期待できる。ですから非常にその幹細胞の特徴というのは、このCOVID-19の重症化を抑えるという点で、機能するということが期待できるんですね。そして、実際に幹細胞治療によって、重症肺炎、COVID-19の重症肺炎が回復したということを示す論文が、今いくつも確認できる状況にです。
我々の方で受けていただいている方々も、コロナの時期にちょうどこの幹細細胞療法をやられた方は、幹細胞療法に伴うCOVID対策というのも並行してできているということになるので、非常に喜ばれて、治療を受けていただいているというところもお話としては上げられるかと思います。


再生医療の課題


このように再生医療とは非常に期待されるもので、コロナ感染に対しても役に立つことが期待できるわけですけれども、課題もあります。課題はこういう新しい治療に避けられない、いわゆる科学的証拠というのが十二分ではない。いわゆるしっかりと二重盲検試験と言われるような、薬が世の中に出ていくときに健常人と病的な方と比較してプラシボを使ったような、盲検試験というようなものが十二分に行われているわけではない。ですので、夢のような治療効果を期待して治療を受けられた時に、その期待に治療効果が得られない、ということももちろんありえます。これはただこの再生医療に限らず医療に伴う不確からしさなので、その辺は皆さんにもご理解いただかなければいけないところでははないかと思っています。
あとは先ほどもご説明したように、この再生医療というのは法律に基づいて行われています。審査が必要になりますので、特定認定再生医療等委員会というものを通さなければいけないんですが、この委員会のレベルや質の差というのは最近よく問題視されています。ですので、提供される治療の均一化というのは、残念ながら確実に得られておりません。その認定再生医療等委員会のレベルですとか、あとは各医療機関の実力というか実績、内容によって、治療のレベルというのは、残念ながら若干変わってしまいます。そういうバイアスがあるということが課題だと言われています。あとはまだ残念ながら保険適用にはなっていませんので、治療費の負担がやはり相応に大きいです。先ほどちょっと見ていただいたと思うんですけれども、培地 、フラスコも含めて、どんどん植え替えをして行くときに必要な栄養剤、栄養素そういうふうなもの自体の単体が、それぞれ皆さん使い回しはできないので、相応に高額のコストもかかりますので、費用と手間がどうしてもかかる治療ということになります。これらが再生医療の課題ということになります。

以上、1時間以上お話しさせていただいたんですけれども、再生医療の全体像と、私達北青山Dクリニックの方で行なっている再生医療の内容、具体的な治療成績、これからの期待ですとか、課題そのようなものをご説明させていました。オンラインでも対応しておりますので、もちろん直接お問い合わせでいらしていただければまた詳しくご質問に回答したいと思いますが、何か今回のお話を聞きになって興味をもたれたりとか気になる事がありましたら、お気軽にお声がけください。長々とお話を聞いていただきありがとうございます。


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