遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)の治療効果を判定する際に注目する指標の一つが腫瘍マーカーです。全てのがん患者さんで腫瘍マーカーが病状の指標として機能するわけではありませんが、症状経過と相関することが多いため、治療効果の指標としてよく用いられています。この度、治療が奏功して症状が改善した方の腫瘍マーカーの推移を検証してみました。 下記のグラフは薬剤の積算投与量と腫瘍マーカーの値をグラフにしています。
■症例①
60歳の女性、炎症性進行乳がんで、径20㎝ほどの巨大な乳がんと肝転移を認めました。カテーテルを用いて乳がんの栄養血管と肝動脈に薬剤を投薬したところ、当初はグラフのように腫瘍マーカーは上昇傾向が続いていましたが、投与終了1カ月後に腫瘍が崩壊し同時に腫瘍マーカーが一気に減少しました。
■症例②
64歳女性、スキルス胃がん+腹膜播種で腸閉塞症状を伴っていました。胃と腹腔内両方に対して経皮的に薬剤投与を実施したところ、腸閉塞症状が改善し腫瘍マーカーも症状の改善に若干遅れて減少しました。
■症例③
78歳男性、スキルス胃がん手術後の再発で、腹痛と腫瘍マーカーの急激な上昇を伴っていました。経静脈的および経皮的腹腔内投与をしたところ、腫瘍マーカーは上昇傾向から下降へ転じました。 いずれの患者さんも、腫瘍マーカーの改善と症状の改善が並行して見られたため、主観的にも客観的にも治療効果が感じられ理想的な治療経過を示しました。 このようにほとんどの方は治療直後から腫瘍マーカーが低下するわけではなく、しばらくしてから腫瘍マーカーが減少トレンドに入ります。これは当院の遺伝子治療のメカニズムからして矛盾しない反応です。当院の遺伝子治療は端的に表現すると、「がんの無限増殖能のキーとなるCDC6タンパクをRNA干渉により消去する治療」となりますが、以下①~⑤のステップを有します。
① CDC6 RNAi が、がん細胞の核の中に侵入する
② shRNAがsiRNAに変換しCDC6のmRNAに干渉し、破壊する
③ CDC6タンパクが枯渇する
④ がん細胞が分裂増殖を停止する
⑤ 分裂を停止したがん細胞がアポトーシス(細胞死)する。
これらの一連の反応は、1~2週間の時間を要すると考えられています。すなわち、薬剤投与直後は、がん細胞の増殖傾向がしばらく続くため腫瘍マーカーが上昇を続けますが、上記①~⑤の反応により、がん細胞の増殖が止まって細胞数が減少モードに入ると、腫瘍マーカーが減少に転じるということになります。 仮に、存在するがん細胞の数に対して薬剤の投与量が少ないと、がん細胞の増殖が完全止まらないために腫瘍マーカーは増大傾向を続けることになります。
すなわち、がん細胞の数に対して十分な薬剤を投与する必要があります。理論的には直径1㎝ほどのがんには10億個のがん細胞が含まれていると考えられています。現在当院で投与している遺伝子治療薬は1ml中に20億個分のがん細胞に反応するCDC6 RNAi が含有されており、理論上は1mlの投与で径1㎝程度のがんの増殖を止めることが十分できると考えられます。
実際は、患者さんのがん細胞の数を完全に掌握できませんので、投与必要量は過去の治療経験を参考にしながら決定しています。 全ての患者さんにグラフで示したような良好な治療効果が得られるよう、引き続き研鑚を積みたいと考えています。