来院される下肢静脈瘤患者さんの最近の傾向doctor-blog

北青山Dクリニックが波長1320nmの血管内レーザー焼灼術(当時は血管内レーザー治療、エンドレーザー治療などと呼ばれていました)を国内で先駆けて導入した2005年には、下肢静脈瘤のレーザー治療を提供している医療機関は日本では数える程度でした。

2000年前後から波長810nmレーザーや初期の世代の高周波など下肢静脈瘤血管内治療用のデバイスはありましたが、術後の疼痛や治療成績の点で不十分なために普及しませんでした。2005年以降、副作用が少なく治療成績が良いとして米国を中心に普及し出した波長1320nmレーザー治療機も日本国内では保険適用ではなかったため、国内の下肢静脈瘤治療はもっぱら従来のストリッピング手術が採択されていました。

当時、北青山Dクリニックは、日帰り(外来通院)でのストリッピング手術の方法を発案していたので、ストリッピング手術は保険で、波長1320nmレーザー治療は自費で、ともに外来通院治療の形で提供していました。前述のごとくこのレーザー治療を提供する医療機関は国内に殆どなかったので、当時はレーザー治療を希望して全国から下肢静脈瘤の患者さんが来院されました。大使館員や日本で仕事をしている欧米人の方々も多く受診されました。また、医師や看護師などの医療従事者の方々も、自身が勤務している医療機関でストリッピング手術を受けるのではなく、レーザー治療を受けることを希望して受診される例が相次ぎました。

2011年から波長980nmのレーザー、2014年から波長1470nmのレーザーおよび次世代の高周波による下肢静脈瘤血管内焼灼術が、国内で保険収載されてから、下肢静脈瘤治療に取り組む医療機関が一気に増加しました。レーザーに比べて高周波の治療器は相対的に安価(レーザー:700~1000万円、高周波:200~300万円)であったため、特に高周波の治療器を導入する医療機関は急増し、現在、下肢静脈瘤血管内焼灼術の実施が公的に認められた認定医療機関は全国で1,700か所以上に及びます。東京都においては、各駅に1か所と言ってよいくらい多くの医療機関が下肢静脈瘤治療を提供しています。

このような中、現在、北青山Dクリニックに受診する患者さんの下肢静脈瘤患者さんの特性は2005年~2015年頃に比べると大きく変わった印象があります。具体的には、まず、重症例が極端に増えました。これは、重症のため他の医療機関で治療を断られた患者さんが、インターネットなどで情報を収集して当クリニックに受診するようになったことが理由のようです。他の医療機関で一度治療を受けたけれども治らなかった、すぐ再発した、という方も同様に増えました。下肢静脈瘤治療を手掛ける医療機関の増加があまりにも急だったということは、治療実績の少ない医療機関も急増したということを意味します。中には不適切と思われる治療法を提案している医療機関も残念ながら見受けられます。また、これは、昨今の国際的な環境の変化が理由と思われますが、中国を始めとしたアジア圏諸国からの患者さんが増えました。モンゴル、ロシア、インドネシア、インド、ベトナム、パキスタンなど過去には殆ど受診歴のない国からの患者さんたちです。また、前述のように医療関係者の受診は以前から経験していましたが、下肢静脈瘤治療を行う医療機関が増加した昨今の方がより医療関係者(特に医師)が治療を受けに来る頻度が増えました。とある1週間は患者さんの9割以上が医師であったということもあります。中には、カナダ人の医師で自ら下肢静脈瘤の治療を担当しているという方がおられました。勤務されているカナダの医療機関ではレーザーや高周波がないので自らはストリッピング手術を提供しているのだけれど、時々日本に来るので血管内治療を安心して任せられる所を探したということでした。このように医療従事者特に同業者の中でも下肢静脈瘤治療を手掛けている医師を、患者さんとして対応する場合には、気を遣うところもありますが、一方では説明が簡略化でき診療時間が短時間で済むという特徴もあります。そして、特に下肢静脈瘤治療を担当しておられる医師が当院に治療を受けに来られるのは大変光栄なことです。

年内には、新たにシアノアクリレートによる非熱性の血管内治療が保険治療で可能となる見込みです。これは、レーザーや高周波に比べてさらに低侵襲で回復の早い最新治療です。私たちはベノクローズ(スーパーグルー)として既に2016年から自費診療で提供しておりますが、これと同様の治療が保険適用になることでまた大きく下肢静脈瘤治療を担当する医療環境が大きく変わるかもしれません。新たな治療モダリティがまた増えますが、今まで同様に適切にかつ丁寧な治療の継続を心がける所存です。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会