アスリートに下肢静脈瘤が多い?doctor-blog

下肢静脈瘤には様々なタイプがある

下肢静脈瘤には、病的なレベルのものから美容上の問題にとどまる軽微なものまで、様々なタイプがあります。

典型的な下肢静脈瘤の発症メカニズム

これらの中で医療機関が一般的に治療対象とする典型的な静脈瘤が伏在型の下肢静脈瘤です。このタイプの静脈瘤は、脚の深部(筋肉の内側)にある中心静脈(深部静脈)の圧力が高くなり、皮膚のすぐ下を走る表在静脈である伏在静脈の逆流防止弁が壊れて血液が逆流することで、発症します。

下肢静脈瘤の発症予防のためには

すなわち、その発症を予防するには、深部静脈内の血圧が高くならないようにすることがポイントになります。長時間の立ち仕事や座りっぱなしは、重力の影響で深部静脈内の血液が心臓に戻りにくくなって血管内に貯留しやすくなるため深部静脈の血圧が高くなってしまいます。また、足の筋肉の収縮は、ポンプのようにはたらいて深部静脈内の血液を心臓に押し上げますので、足の筋肉をよく動かすと深部静脈内の血液がクリアされてその血圧は下がります。すなわち、立ちっぱなしや座りっぱなしを避けて、適度な運動により足の筋肉を使うことが下肢静脈瘤の発症予防になります。

アスリートに下肢静脈瘤が目立つ?

このように運動は下肢静脈瘤の予防法として非常に大切ですが、運動も度を超すと逆に下肢静脈瘤の発症を促す可能性があります。今まで多くの下肢静脈瘤の患者さん(のべ3万人以上)の診療をしてきましたが、フルマラソンランナー、サッカー選手、フラメンコダンサーなど足に相当の負荷がかかるスポーツや趣味を持っている方に下肢静脈瘤の発症が多い印象を受けます。もちろん運動をすることが下肢静脈瘤発症のリスクということではありません。しかし、極端に過度の負担がかかるスポーツは足の静脈を酷使して破綻を招くリスクがあるかもしれません。

韓国のトップスピードスケーターも下肢静脈瘤で苦しんでいたよう

韓国スポーツ界を代表する冬季五輪の花「スピードスケートの女帝」李相花(イ・サンファ 30)選手がとうとうリンクを去ることになったと報道されました。彼女は下肢静脈瘤の症状に慢性的に苦しんでいたようです。

下肢静脈瘤に対する昨今の治療は血管内治療が主で、治療による体へのダメージは小さくて済みます。トップアスリートが治療を受ける場合、競技から離れることでパフォーマンスが落ちることを不安に感じられるようですが、下肢静脈瘤の血管内治療は治療後まもなくトレーニングを再開でき速やかに競技に復帰できます。早期治療を受けることを躊躇して病状を悪化させたとしたら治療担当医としては残念なことです。

下肢静脈瘤は自然に治ることはなく徐々に悪化していく

下肢静脈瘤は発症すると自然に改善することはなく徐々に悪化します。ライフスタイルや体質により経過は様々で、一般的には処置に急を要することはありませんが、放置すると徐々に症状は進行して正常血管がむしばまれていき、結果として足の血液循環は悪化します。おそらく、李相花選手の下肢静脈瘤も徐々に進行したことで足の血液循環が悪くなり、筋肉の痙攣が誘発される、疲労の回復が遅れるなどの障害を来していたと思われます。早期に治療をしていれば競技パフォーマンスがさらに高まっていたことでしょう。

下肢静脈瘤の予防に望ましい運動は?

ウオーキング、踵の上げ下げ、ヨガなどの適度な運動は下肢静脈瘤の発症予防に効果があります。特にふくらはぎの筋肉は第二の心臓と呼ばれるほどで、足にたまった血液を心臓に送り戻すポンプの働きがあります。ふくらはぎの筋肉を適度に刺激する運動は非常に大切です。また、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋も足の血液を心臓に吸い上げる吸引圧を生み出すので、日常的に呼吸運動(深呼吸や風船を膨らますように息を強く吐く行為など)をすることも有効です。頻回なフルマラソンや、足に過度な負荷がかかるスポーツを除けば、スポーツをすることは全般的に下肢静脈瘤の予防に役立つと考えられます。適度なスポーツに日常的に取り組むことをお勧めします。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会