脚にミミズ腫れのように血管がボコボコと浮き上がる病気、「下肢静脈瘤」の標準治療は、今や、血管内治療が主流です。最近はレーザー機器の機能が良くなってきたため、大きなタイプの静脈瘤であっても、従来の血管を引き抜き、切除する「ストリッピング手術」はまず必要がなくなりました。レーザーのファイバー径が細くなり末端の部分的な静脈瘤の処理も可能になったことから、以前は何か所も切って静脈を切除する治療を追加しなければいけないようなケースも切開や切除をすることなくレーザーのみ(硬化療法:注射治療の併用が必要なことはある)で対処できるようになりました。
◆従来の血管抜去手術「ストリッピング手術」
また、最近国際的に注目されているのは、瞬間接着剤などによる治療です。血管内治療の中でも、レーザーや高周波などでは「熱による反応」が避けられません。よって治療時には必ず処理する血管周囲を麻酔薬で被覆する必要があります。瞬間接着剤を用いた治療では処理血管周囲への麻酔は必要ありません。この治療では大きな発熱がなく、痛みを殆ど伴わないからです。瞬間接着剤は日常的に使用されているものと主成分は基本的に共通していますが、血管内治療に用いるものは医療用の特別の素材になります。具体的には工業用の瞬間接着剤はエチルシアノアクリレート(ECA)、医療用のものはオクチルシアノアクリレート(OCA)やブチルシアノクリレート(BCA)になります。これら瞬間接着剤による治療はCAE (cyanoacrylate embolization) と一般的には呼ばれていますが、熱が発生しないことと周囲への浸潤麻酔が不要なことからNTNT(non- thermal non-tumescent)とも呼ばれています。 Dクリニックでは患者さんに馴染んでいただけるように、「スーパーグルー治療」や「ベノクローズ」などの呼び名を通常用いています。
◆CAE システムの一つ
スーパーグルー治療(ベノクローズ)の利点は、熱を帯びず麻酔が不要なことに加えて、血管が閉鎖する速度がほぼ瞬時的なので術後の補助療法として圧迫療法がほとんど不要であることです。よって弾性ストッキングによる圧迫が苦痛に感じる方やストッキングによる皮膚かぶれが起こりやすい方には選択しやすい治療法と言えるでしょう。
では、従来のストリッピング手術が血管内レーザー焼灼術及び血管内高周波焼灼術などの血管内治療に取って代わられているように、将来は、レーザーや高周波がOCAやBCAなどの瞬間接着剤によるスーパーグルー治療(ベノクローズ)に塗り替えられることになるのでしょうか。おそらく答えはNoです。というのは、スーパーグルー治療では末端の静脈拡張の処理が不十分になることや蛇行の強い静脈瘤など複雑なものには適さないことがあるからです。それには前述の応用力のあるレーザーが向いています。体にメスを入れない低侵襲治療であるレーザー治療が今後も静脈瘤治療の中心となるでしょう。
Dクリニックには、波長1470nm 2リングタイプレーザー、 高周波(RF、ラジオ波)、波長2000nmレーザー、スーパーグルー治療(ベノクローズ/ OCA、BCA)など、すべての治療機器が備わっています。もちろん、従来の根治手術(ストリッピング手術、stab avulsion: スタブアバルジョン)も実施できますが、今やその必要は殆どありません。
◆1470nmレーザー
◆高周波
◆2000nmレーザー
◆CAE自動注入器
◆G-YAG
治療法の選択は、患者さんのニーズや、静脈瘤の特徴によって決められます。具体的には以下のように選択しています。
1)遠方から来られる方、最小限の通院で最速の回復を希望する方など
→最もファイバーが細くて波長が長い2000nmのレーザー
2)保険治療希望で蛇行が激しいタイプ
→波長1470nmレーザー
3)保険治療希望で標準的なタイプ
→高周波
4)比較的軽傷で局所麻酔を最小限にしてストッキングも着用期間も最短にしたい方
→スーパーグルー (ベノクローズ)
5)先天性なタイプや蛇行や拡張径が大きく伏在なタイプ
→波長1470nmレーザー もしくは 2000nmレーザー
6)青、赤、紫の細かいタイプのクモの巣、網目タイプの静脈瘤を消したい方
→G-YAG(ロングパルスYAG)レーザー
最近は、海外から治療を希望して来院する患者さんも少なくありません。また、他の医療機関で治療を断られた方、治療後再発した方など、患者さんのバリエーションが非常に多くなってきました。 単純なタイプだけではなく、複数のタイプの静脈瘤を併発しているケースや複雑な下肢静脈瘤の治療に対応する機会も増えている中で、上記、複数のモダリティーを駆使して満足度の高い治療成果が得られるよう日々ブラッシュアップしています。