下肢静脈瘤の治療の「専門医療機関」であれば“安心“という訳ではないdoctor-blog

体に負担のかからない低侵襲治療(血管内治療)が普及し、そもそも患者さんの数が多い下肢静脈瘤の治療が日帰り治療で問題なく行えるようになってきました。それに伴って、全国に「下肢静脈瘤治療専門クリニック」が増えています。東京圏では、沿線によっては各駅に1件その専門クリニックがある印象を受けるほど下肢静脈瘤に対応する医療機関がいたるところに見られます。元来、下肢静脈瘤の治療を担当する専門科は「血管外科」です。血管の手術は繊細な手技が求められることが多く、動脈・静脈全般の手術に習熟した血管外科が専門に対応していました。昨今は、メスを使わない血管内治療が広く普及し、形成外科・皮膚科・放射線科など、血管の外科手術(メスを使う手術)を担当していない科でも下肢静脈瘤治療に対応するようになりました。それも医療機関が急増した理由の一つです。
 以前は、下肢静脈瘤の患者さんがその治療を提供している医療機関を見つけるのが困難でした。治療を行う医療機関が限られていたからです。内科や皮膚科などの医師が下肢静脈瘤治療についてはあまり詳しくないということが珍しくなかったのです。最近は、下肢静脈瘤の認知度が高まっただけでなく、患者さんの住まいや職場に近いところで下肢静脈瘤治療を受けられるようになってきました。それは患者さんにとっては福音だと思います。
 ところが、下肢静脈瘤の血管内治療を実施する医療機関が増える中、問題がないわけではありません。それは、残念ながら不適切な治療方針を立てている専門クリニックが少なからずあることです。最近、特に他院での治療に不安を感じて当院を受診される方が時々おられます。過去の検査や治療歴を伺うと、不適切な治療法を提示されていたり、また、治療が可能なのに治療はできないと説明されていたり、標準的な血管外科医のレベルからは考えられないような診療内容であることがあります。そして、そのような医療機関は概して「下肢静脈瘤専門」を看板に掲げています。医療が細分化する中で「専門性」は極めて重要です。しかし、「○○専門」という看板が必ずしもその医療機関の治療レベルの高さを示すわけではありません。最近は下肢静脈瘤に限らず、○○専門という医療機関が目立ちますが、その「専門」は客観的に評価されたものではなく(特別の資格をもっているわけではない)、自称に過ぎません。「○○専門」という看板が、その医療機関の本当の意味で専門性が高いことを表すものではないのです。 
 また、自分の症状(痛み、しびれ、むくみ、だるさ、皮膚症状など)が下肢静脈瘤によるものだと思って受診し、結果他の疾患の症状だったということは良くあります。下肢静脈瘤の類似の症状を呈する疾患は数多くあります。下肢静脈瘤以外の疾患にも総合的に対応できる医療機関が、結果として患者さんにとってより適切な治療を提供できる場合があります。総合診療も可能で、かつ高い専門性をもって下肢静脈瘤の治療を提供している医療機関で下肢静脈瘤診療を受けることが本来は望ましいのではないでしょうか。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会