シアノアクリレートの中でも医療用接着剤として普及し出しているオクチルシアノアクリレート(OCA)、ブチルシアノアクリレート(BCA)は、その耳ざわりの良さとイメージしやすいことから「スーパーグルー」という呼称がしばしば好んで用いられているようです。本来は、「スーパーグルー」は単に「瞬間接着剤」を意味する言葉なのですが、「下肢静脈瘤の次世代治療に用いられるOCAとBCAの特別な代名詞」として昨今は目にするようになりました。
北青山Dクリニックでは、スーパーグルーを用いた血管内治療を、治療の特徴に因んで“ベノクローズ(Venoclose)”と呼んでいますが、今回は、皆様が耳にする機会が多いと思われる「スーパーグルー」という表現を用いて情報提供します。
「レーザーや高周波を超える次世代治療」、「レーザーや高周波治療に比べて体にダメージがより少なく回復もさらに早い負担が最小限の治療」、そのように表現されるスーパーグルー治療ですが、実際に臨床現場での経過はどうなのでしょうか。近い将来、レーザーや高周波治療は全てスーパーグルーに置き換わってしまうのでしょうか。下肢静脈瘤の新たな治療の開発や先端治療の導入をいち早く実践してきた経験値からスーパーグルーの現状、そして将来の展望を検証したいと思います。
国際的な医学論文の検索ポータルPub Medを用いて、「cyanoacrylate、varix」(cyanoacrylateはスーパーグルー、varixは静脈瘤 を意味します)で検索すると、166本の論文が提示されます。varix:静脈瘤の中には、下肢静脈瘤の他に胃食道静脈瘤なども含まれるため166件の全てがそうではないですが、スーパーグルーによる下肢静脈瘤治療について非常に多くの論文が投稿されています(2013年以降で100件前後)。それらの論文の殆どにおいて、レーザー治療や高周波治療と比較してスーパーグルー治療の治療成績が問題ないことが示されています。むしろスーパーグルーの方が、TLA麻酔という広範囲の局所麻酔が不要、術後の圧迫ストッキングも不要など、より体に負担が少ない治療であるということが強調されています。今のところスーパーグルー治療に関する否定的な論文は見当たりません。ただし、欧州のマイナーな研究会で、スーパーグルー治療後に原因不明の血管炎が発生し処理した血管を全切除する必要があった事例が注目を集めたという情報があります。たとえどんなに期待される治療であっても中期・長期経過報告があるまでは未知の偶発症のリスクは避けられません。
当院では2017年初頭からスーパーグルー治療を行っており、治療後半年から1年を経過した症例が増えてきました。以前このブログでもご紹介した通り、スーパーグルー治療後の患者さんの治療満足度調査結果は非常に良好で約半数の方が大満足、90%以上の方が満足したとの回答を得ることが出来ました。
スーパーグルー治療は、最新の治療のため保険収載されていませんので自費診療となります。保険診療に比較すると治療費負担が大きい自費診療で上記のような満足度結果であったということは、スーパーグルー治療は極めて高く評価して頂いたと言えます。ただし、中には分枝血管のグルー治療部分のしこりが消えにくかったり、皮下にグルーが残っていた所が感染を誘発したり、と、極めて少数ですが注意を要する症例が無いわけではありません。また、血管の閉鎖に要する時間は短時間ですが、拡張の大きい血管の場合だと十分閉鎖が得られない場合もあります。そのようなことを踏まえると、スーパーグルー治療のみであらゆる下肢静脈瘤をコントロールするのは難しく、静脈瘤の拡張具合や分枝静脈瘤が複雑な場合などは、レーザー焼灼や硬化療法を組み合わせる必要があると言えます。
北青山Dクリニックでは、全ての下肢静脈瘤治療に対して日帰り(外来)で治療が実施できるように、複数の治療モダリティを駆使して対応しています。
スーパーグルー治療は、患者さんの治療後の負担が小さく回復が早い点で極めて有望な治療ですが、この治療だけで全ての静脈瘤をコントロールすることはできません。
一方、数年後には日本でもスーパーグルー治療が保険収載されることが期待されます。適切な治療を慎重に実施する医療機関が中心となって、下肢静脈瘤治療の有力なオプションの一つとしてスーパーグルー治療が普及していくことを期待しています。