先日、脚の血管の病気についての質問を受けました。
脚の血管の病気で代表的なものは、「下肢静脈瘤」・「深部静脈血栓症」・「閉塞性動脈硬化症」ですが、これらの症状は生活の質を低下させ、時に命に関わるので軽視できません。今回のブログではこれらについて簡単に解説します。
◆下肢静脈瘤
この3つの中では罹患人口が最も多いと言える下肢静脈瘤は、脚にボコボコと血管が浮き上がるのが典型的な症状です。
脚の表面の静脈がボコボコと膨らむのは、静脈の逆流防止弁が壊れ血液の逆流が発生していることが原因です。その弁不全によって、こむら返り・むくみ・だるさ・かゆみなど、血液のうっ滞症状(血液が心臓にスムーズに戻らずに組織中によどみ溜まること)が発生することがあります。
この弁不全は一度発症すると自然に治らず、症状は徐々に悪化していきます。重症化して血栓性血管炎や潰瘍が発症すると、痛みもひどくなり治療も長く難しくなります。ですので、下肢静脈瘤は、予防と早期発見、早期治療、そして治療後も再発予防のための自己管理が重要です。
自覚症状はなくても、弁不全と逆流が発生しているかどうかは血管エコー検査で確認できます。この検査は外来で簡単に実施でき、体に負担のない簡単な検査です。脚に、こむら返り、むくみ、だるさ、かゆみなどを感じたら血管外科でエコー検査を受けることをお勧めします。
◆深部静脈血栓症
また、脚の血管のトラブルとして、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)も重要です。
これは、エコノミークラスに搭乗中に限って生じる訳ではなく、水分不足で長時間じっと動かずにいるといつでもどこでも発生する可能性があります。脱水になりやすい夏場は発症しやすい時期と言われています。また、自然災害などの避難場での生活が長引くと深部静脈血栓症の発症が増えるのは良く知られています。深部静脈血栓症が危険なのは、脚の静脈に発生した血栓が肺や脳に飛んで肺梗塞や脳梗塞など重篤な事態を招くことがあるからです。
下肢静脈瘤と深部静脈血栓症は、お互いに関係しています。いずれも脚の静脈のトラブルであることから、共通する予防策についてご説明します。
<脚の静脈トラブル予防法>
・下肢の血流を心臓に戻すための駆動力を維持する。
→ 深呼吸を励行する(胸腔内が陰圧になり下肢の血液が心臓に戻りやすくなる)。
→ 歩行などふくらはぎの筋力を強める運動を習慣づける(筋ポンプ作用によりたまった血液を心臓に戻す)。
・座りっぱなし、立ちっぱなしを避ける。
・弾圧ストッキングをはく。
・十分な水分摂取とバランスのとれた食事をとる。
・十分な睡眠をとる。
◆閉塞性動脈硬化症
また、脚の血管のトラブルとして、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)も重要です。
この中で最も医学的に重視されるのは、動脈硬化を背景にした「閉塞性動脈硬化症」です。
動脈硬化は体の全ての動脈において発生しますが、「閉塞性動脈硬化症」は一般的に脚の動脈に発生するものに限られます。
動脈硬化は、加齢とともに誰にでも多かれ少なかれ発症しますが、血液中の糖、コレステロール、中性脂肪が多い方(糖尿病、脂質異常症)や高血圧の方は、特に動脈硬化が進行しやすく、動脈硬化によって発生する血栓によって動脈が閉塞してその先の組織に血流が行き届かずに組織が壊死にいたる状態(梗塞)になるリスクが大きくなります。
血流が行き届かずに壊死に陥る臓器が心臓の場合「心筋梗塞」、脳の場合「脳梗塞」と呼ばれ、これらは死に至る疾患として広く知られています。しかし、閉塞性動脈硬化症は、これら心筋梗塞や脳梗塞と発症機転が共通しており、脚の症状である閉塞性動脈硬化症に陥っている方は、心臓や脳にも同様に閉塞症状(梗塞)が発症するリスクが大きいということはあまり注目されていないのではないでしょうか。脚のしびれや痛みが、心筋梗塞や脳梗塞の予兆と言える場合があるのです。
動脈硬化は体のいたるところに発生し得るのですが、実際に「動脈硬化→血管閉塞→組織の梗塞」が発生するのは、殆どが心臓、脳、脚の3カ所に限られます。
閉塞性動脈硬化症の早期診断は、血管エコー検査や血圧脈波検査など簡単な検査で可能になります。予防のためには、高血圧・糖尿病・高脂血症(脂質異常症)・喫煙・運動不足など動脈硬化の危険因子を回避することが重要です。
それ自体は直接命に関わることがない「脚の血管の病気」下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、閉塞性動脈硬化症が、肺梗塞・脳梗塞・心筋梗塞などに関係する場合があること、及び日常的に脚のケアやチェックをすることがこれらの疾患の早期発見や予防に繋がることを、皆さんがしっかり認識していただきたいと思います。