以前のブログにも書いたが、下肢静脈瘤の手術は一般外科で研修医がまず初めに取り組む手術だ。すなわち、何年も外科修行を積んで得られる職人技が必要な手術ではない。確かに、静脈瘤は複雑なケースがあり個人差も大きくバリエーションが豊富なので、経験豊かな医師の方が安定した治療を行うことができ良い治療成績を残せるということは間違いないが、最新の血管内レーザー治療とて神の手が必要なほど高度の技術を要するものではない。
かつて、「神の手」をキーワードにした取材を、おこがましくて断った経緯がある(今は少し後悔しているが・・・)。自分が行っているのは、ごくごくスタンダードな治療手技で、一般的な外科医であれば、それほど時間をかけずに習得できるもの、と考えていたからだ。新しい治療法を開拓して良好な治療成績を維持していることを評価されたのは嬉しかったが、「神の手」という表現には違和感を覚えざるを得なかった。同様に名医やスーパードクターも、そのように呼ばれるのは憚りがある(しかし、これらをテーマとした取材は何度か受けてしまった・・・)。そのような評価を下すのは患者さん方や同僚の医師であり、治療実績や業績のみから機械的に判断できるものではない。
また、マスコミが評価するのは、アカデミックポジション(教授、准教授など)や論文数、学会発表数などのようだが、臨床医の技量は、それだけではもちろん測れない。教授、准教授のポストにある先生方の多くは非常に優秀で尊敬に値する方々だが、残念ながら周囲の期待に応える力量のない肩書先行の方もおられるし、後世にも生きる有意義な論文執筆や学会での発表は非常に重要なのは言うまでもないが、医学会での過度の論文偏重の傾向が捏造論文問題など恥ずべき失態を作り出したとも言える。
一方、本当の意味で優秀な医師、名医を、探し出すのは容易ではない。先述のごとく患者さんの声と、医療同業者の声の裏付けが、名医である資質には最低限必要だろう。そして、人間的には良い人でも腕の悪い医師は、患者さんや同僚達から評価されない。我々医師ですら、専門外の領域での真の名医は誰なのか正しい情報を得ることは難しい。信頼のできる医師からの口コミ情報に頼るしかないのが現状だ。