約10年前から米国では下肢静脈瘤レーザー治療が行われていましたが、開発当時のレーザーによる治療は、出血や疼痛が大きく、従来型の手術と比べて特に進化した治療といえるものではありませんでした。以後、レーザー機器は格段に進化し、従来の血管を抜き去る手術(ストリッピング手術)に比べて、傷口が目立たないばかりか、出血や痛みが少なく治療効果も高い進化した治療機器として発展してきました。
しかし、どんなにレーザー機器が進化しても、手術を担当する医師の手術手技によってはレーザー治療による再発率が大きくなることもわかってきました。
980nmダイオードレーザーや1320nmパルスヤグレーザーは下肢静脈瘤のレーザー治療機器としては完成モデルといえ、これらを用いて適切な治療を行えば、術後の回復の早さ、安全性、治療効果などにおいて従来の手術に比べてきわめて高いクオリティーを体感できるようになりました。
今後はレーザー機器のスペックを求めるよりも、いかに術者が安全で治療効果の高い治療法を採択するかが鍵になっているといえます。しかし、レーザー業者は営利を求め続けるがために常により新しいレーザーを開発・販売する必要があり、下肢静脈瘤レーザーに限らずシミ治療など美容皮膚科領域のレーザー治療機器は既に完成モデルが作られた後も、毎年新しいレーザーが作り続けられ、饒舌なまでに余分なスペックが加えられた新しいレーザーが登場してきています。
下肢静脈瘤のレーザー治療に関しては、今後ポイントとなるのは、レーザーのスペックよりむしろ術者の手技・技量です。現に、同じレーザー機器を用いても医療機関によっては治療成績が著しく異なる可能性があり、不適切・不十分な手技・技量によるのであれば、どんなにレーザー機器が新しくても治療後の再発率が高くなる可能性があります。
昨今、我々と同じレーザー機器を用いて治療した成績で2年後の再発率が20%を超えたという報告を目にしましたが、これは考えられない程、高い数値であり、高性能のレーザーを用いたにも拘らず不適切な治療手技を選択したためであると考えられます。実際、私が担当したレーザー治療対象患者で、術後2年以上経過して再発したのは1例も報告されていません。
適切な治療のポイントの一つは、静脈瘤の逆流点の起始部の処理をしっかり行うことだと考えられておりますが、その手技は手間がかかり、しっかりと処理をするのには多少困難を伴うこともあるため、簡易なレーザー治療を求める先生方の多くはその肝心な処置を回避して末端からレーザー処置を好む傾向にあります。
この手技は確かに術者にとって手間が少なく手術時間も多少短くて済みますが、当初から、再発率が高くなることと、人為的に発生した血栓が肺に飛ぶリスクが懸念されていました。
今まで、血栓が飛んだケースは報告されておりませんが、その簡単な手技による再発例が多く報告されています。血管外科医としては極めて基礎的な手技である逆流点の処置をおろそかにせずに、レーザー治療ゆえに尚更のこと根治性と安全性を重視した治療法を選択する必要があると判断します。
治療を受ける皆様は、レーザー治療後の再発率などに関する成績を予め各医療機関に確認してから、治療に進まれるようお願いします。