症例・治療事例CASE

がん遺伝子治療スキルス胃がん

【がん遺伝子治療】症例(2)60代女性 スキルス胃がん(卵巣がん、直腸がん転移)

2021.09.11

<治療開始時>
内視鏡所見:胃壁の肥厚・発赤あり
消化管通過障害あり 

<治療開始後3か月>
内視鏡所見:粘膜肥厚発赤軽度改善
自覚症状消失

ご相談内容 2013年3月、腹痛を主訴に発症。他院で卵巣腫瘍の診断で切除したところKruckenberg腫瘍(転移性卵巣癌)の診断を受けた。胃内視鏡検査ではスキルス胃がんを疑われたが質的診断には至らず、ジャンボバイオプシーの結果でも癌は同定されなかった。今後、化学療法を予定しているが、当院のがん遺伝子治療を並行して行いたいと来院されました。
治療方針 化学療法を補完する立場として、治療をプランする。
治療経過 ⓵点滴、②局所注射(エコーガイド下)、③腹腔内投与での
1クール目 1~2週間で1⇒2⇒3⇒4と10U
2クール目 1~2週間で2⇒4⇒6⇒8と20Uと増量し10U/回で維持
それ以降は経過を見て、少し間を空けてクールの継続を予定した。

2014年1月 卵巣癌で子宮全摘したのち胃癌の転移と診断される。
2014年2月 遺伝子治療開始。1クール目として4月まで4回治療実施。症状が安定していたため遺伝治療を一旦休止し、化学療法を継続する方針となった。
2015年1月 直腸に転移し尿路閉塞、尿管ステント挿入。
2015年6月 2クール目として、遺伝子治療を再開。排便障害あり。前回の6倍量を2か月間で投与したところ、排便状態が通常に回復。異常値だった腫瘍マーカーが全て正常値に回復。
2015年8月 3か月に1回の頻度で遺伝子治療を継続。
2016年1月 食欲、排便、排尿全く問題なく、体感的には全く健康。腫瘍マーカーは2015年8月以降正常値内で推移している。
2016年12月時点まで無症状。

<腫瘍マーカーの推移>
治療状況 実際には、1クール目終了後、症状安定のため遺伝子治療を一時休止。その後、約1年間、化学療法のみで対応していたが、病状が進行し直腸転移を来したため、2クール目の遺伝子治療を開始。2か月間で前回の6倍量を投与したところ、排便障害が消失、腫瘍マーカーも改善した。その後、3か月に1回の頻度で遺伝子治療を継続。遺伝子継続中は、食欲、排便、排尿全く問題なく、体感的には全く健康。腫瘍マーカーも2クール目終了以降正常値内で推移した。

遺伝子治療における効果を決定する要因として投与する核酸量(RNA量)の重要性が示され、この知見が治療戦略の改善に繋がった極めて重要な症例。従来の10倍程度の核酸量を投与した結果、腸閉塞を引き起こしていたスキルス胃癌の症状が劇的に改善し、患者さんから「治った」との(体感的)コメントが得られた。この成果を受けて、遺伝子製剤の増量投与の意義が確認され、現在のハイボリューム投与に繋がった。
治療期間 3年間
費用 治療総額:1クール目、初期の4か月で10U、42万円。
2クール目は2か月で60U、252万円。
その後継続して10U×7回、294万円。
治療費 計 588万円(税別)。

※遺伝子製剤の投与量単位(U:unit)について
遺伝子治療製剤の投与ボリュームを表現する際に
・Titer: 遺伝子を運ぶウイルスベクター粒子の数または感染価
・ベクターコピー数 
などが用いられます。投与量単位(U)は、当院で便宜上設定したもので公的な基準ではありません。具体的には、当院で設定している1Uは1.0×10^8(10の8乗)=1億ベクターコピーに相当します。
治療のリスク 大規模な二重盲検試験が実施されておらず未承認治療です。
注射部の内出血、軽度疼痛、一過性の発熱(37-38℃)など、軽微な副作用が生じる場合があります。

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