症例・治療事例CASE

がん遺伝子治療スキルス胃がん

【がん遺伝子治療】症例(18) 50代男性 スキルス胃がん・腹膜播種

2024.06.15

<治療開始1ヶ月前>

<12回/3ヶ月治療実施後>
胃角部前壁type3の胃がんで腹水を伴う症例に対し、3ヶ月月間、12回にわたって計120億ベクターコピー数の遺伝子治療製剤を投与。胃角部の病変は平坦化し、腹水中のがん細胞も検出されなかった。

ご相談内容 2022年2月、スキルス胃がん・腹膜播種(進行胃癌 肉眼型:4型浸潤型)と診断された。腹水、腰背部痛あり。がん専門病院で、通常の化学療法を進めるか、ゲノム解析の結果治験治療に入るか検討中。治療効果を高めるため当院の遺伝子治療を選択するかを検討している。
治療方針 標準治療を補完する立場で、点滴、局所注射、腹腔内投与により遺伝子治療を実施。
治療経過 2022年3月4日 遺伝子治療カウンセリング

ゲノム解析の結果、治験を選択する場合、現遺伝子治療との併用はできないが、標準治療である化学療法を行う場合は先行して遺伝子治療の実施が可能と説明。


2022年3月4日・7日・11日・14日・18日・22日
遺伝子治療を標準治療に先行して実施した。遺伝子治療は、週2回程度の頻度で10回の治療継続を目標に進める。送達経路は①点滴②局所注射③腹腔内投与。1回の治療あたり遺伝子製剤10Uを投与する。
開始1か月で、1回の治療あたり遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて6回投与。
治療経過中に当院と連携できる病院で化学療法担当医療機関を検討したいとの希望があり、当該病院を紹介。

 3月4日 背部~腹部にかけてやや重い痛みがある。遺伝子治療の副作用はない。
 3月7日 EGD(上部消化器官内視鏡検査)実施。遺伝子製剤は内視鏡粘膜経由、経皮的局所注射、経皮的腹腔内注射、点滴で送達。
 3月14日 遺伝子製剤投与後、「一時的に腹部に張り感が出る」とのこと。背部痛は軽減している印象あり。他院での遺伝子検査結果、キイトルーダ適応なし。
 3月18日 腹部の張り感がきつく、食事がとりにくい。お小水の出が悪い。


3月25日
当院連携の医療機関を受診。担当医師より「上部消化器官内視鏡検査上は原発が小さくなっていたので、遺伝子治療の効果はあったと思う。今後2週間に1回の頻度で化学療法を継続し、腹水のコントロール状況によっては審査腹腔鏡、腹腔ポート留置の方向で治療戦略を固めたい」とのこと。遺伝子治療は、標準治療を補完する形で行っていく。


2022年4月5日・12日・16日
遺伝子治療開始2か月目、1回の治療あたり遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて3回投与。

 4月5日 化学治療開始後は「胸やけ、吐き気、手先のしびれ」などの副作用があるとのこと。今後腹水による症状が悪化しないよう、腹腔内への投与は慎重に検討する方針。
 4月12日「腹水貯留があるが、以前より体調は良い。食欲はあるが、食べ過ぎると詰まる感じ。排便・排尿も改善傾向で、排尿がしっかりあると腹水が減る印象がある」とのこと。


2022年5月10日・17日
遺伝子治療開始3か月目、1回の治療あたり遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて2回投与。化学療法の間で遺伝子治療を実施する。
 5月10日 「パクリキタセル腹腔内投与ではあまり副作用はなく終了した。体力はやや低下したが食事はとれている。」とのこと。


5月下旬 腹腔ポートを留置。

2022年6月20日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「化学療法後は、時々チクチクとした痛みがあり、げっぷが多い印象。」とのこと。

2022年7月4日
 遺伝子製剤10Uを点滴、EGD下局注射、腹腔内ポートにて投与。
 上部消化器官内視鏡検査実施。「食残多い。播種は前回内視鏡imageと比較すると明らかに平坦化している。」腫瘍内部、辺縁に遺伝子製剤を局所注射。
引き続き大学病院での化学慮法の状況に合わせて、遺伝子治療を組む。

2022年7月19日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「腹水が無ければほとんどストレスはない。排便もあり、食欲もあるが食べ過ぎると腹部膨満がありつらい。」

2022年8月4日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
前回と著変なし。腹水、DD値、CRP値などコントロール十分ではないが、採血データ、症状が安定しており治療負担も鑑みて、治療間隔を1か月ごとに変更。

2022年9月6日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「腹水が溜まらなければ、特にストレスはない。排泄も食事も問題ない。前回腹水穿刺したのが6月上旬なので、溜まる速度は減じている感じはある。」

2022年10月4日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「体調は変わらないが、腹水の貯留がある。溜まる速度が遅くなっていた印象だったが、今回はまたすぐに溜まってしまった感じがある。」
病院での化学療法も継続中。

2022年11月8日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「腹水の貯水傾向は低下している。腹水内にがん細胞は確認されていない。食事、排泄問題ない。」

11月下旬
腹腔ポート抜去。ポート再度留置。

2022年12月20日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「最近は腹水が溜まるスピードは遅くなった。」

2023年1月24日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「腹水は貯留しなくなった。パクリキタセル腹腔内投与は継続していて、副作用は末梢の痺れ感があるのみ。」

2023年3月20日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
今後は2か月に1度の治療頻度で経過を見る。

2023年5月15日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
EGD(上部消化器官内視鏡検査)実施。
「前回同様、食残多い。もともと胃がんがあった部位は、
瘢痕化し、肉眼的には腫瘍性病変は明らかではない。以前に腫瘍が存在した位置から生検3点採取。」

2023年7月10日
「体調、腹水は変化なし。」

2023年9月11日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「体調、腹水は変化なし。」

2023年11月13日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「体調は変化なし。食事を取ると腹部膨張感がある。この2ヶ月入院していない。」
EGD(上部消化器官内視鏡検査)実施。
「胃がんがあった部位は、今回の内視鏡時にも腫瘍性病変は明らかではなくCR(完全寛解)維持。
点状発赤が非萎縮部に散在。胃炎評価のため、生検3点採取。」

2024年1月15日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「食欲あり、排泄も問題ないが、食後の腹満感がつらい。腹水の状態は変わらない。」
状態が良ければ遺伝子治療の投与間隔は延ばしても良いが、
本人の意向で腹水の処置が落ち着いてから考えるとのこと。

2024年3月18日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「症状は安定している。抗がん剤治療後は下痢になる。治療が長期化していることで
自分の生命力や回復力を高めるのが良いのではないかと考えるようになってきた。
標準治療の主治医から、腹水中にがん細胞は同定されていない。局所はCR(完全寛解)を維持。
治療の辞め時が悩ましい。」とのこと。
審査腹腔鏡検査にはご本人は前向きではない。
徐々に治療頻度を減らしながら治療離脱を図るのが妥当か。

2024年6月10日
遺伝子製剤10Uを点滴、局所注射にて投与。
「抗がん剤は6月まで1か月ぐらい休んでいた。体調は良く、食事も摂れる。旅行も行った。」
EGD(上部消化器官内視鏡検査)実施。
「食残少量あり。胃炎評価のため生検2点採取。
以前に腫瘍があった部位から生検2点採取。病理学的にもCR(完全緩解)を確認しておきたい。


治療状況 2022年2月、スキルス胃がん・腹膜播種の診断。治療効果を高めるために、標準治療に併用して遺伝子治療を実施。約2週間ごとに集中して遺伝子製剤の投与を行い、徐々に原発巣が小さくなっていた。当院と連携の良好な医療機関にて標準治療を開始、それを補完する形で遺伝子治療を継続した。7月の検査では、明らかに病変平坦化縮小がみられた。2023年1月の投与時には、腹水の貯留も見られなくなった。現在、2か月に1度の治療頻度で継続して治療中。症状は極めて安定しており、食欲、運動も良好な状態。遺伝子治療開始2年3か月経過の時点でも、継続して病巣は消失したまま再燃は見られず。長期患っていた腹水も減少傾向が持続している。今後は、治療頻度を落としながら化学治療の離脱も検討可能と思われる。

※2024/6追記
治療期間 2022年3月~2024年6月(2年3か月)継続中
費用 治療総額:計28回の治療で治療費 計 13,398,000円。(税込)

※遺伝子製剤の投与量単位(U:unit)について
遺伝子治療製剤の投与ボリュームを表現する際に
・Titer: 遺伝子を運ぶウイルスベクター粒子の数または感染価
・ベクターコピー数 
などが用いられます。
投与量単位(U)は、当院で便宜上設定したもので公的な基準ではありません。
具体的には、当院で設定している1Uは1.0×10^8(10の8乗)=1億ベクターコピーに相当します。
治療のリスク 大規模な二重盲検試験が実施されておらず未承認治療です。
注射部の内出血、軽度疼痛、一過性の発熱(37-38℃)など、軽微な副作用がある場合があります。

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