症例・治療事例CASE

がん遺伝子治療膵臓がん

【がん遺伝子治療】症例(16)60代女性 膵臓がん術後再発 腹壁転移 腹膜播種

2023.03.13

ご相談内容 2018年5月毎年の健診で膵臓がんと診断され、6月大学病院で膵尾部・脾臓・左副腎・大腸部分切除実施。リンパ節の転移はなかった。腫瘍径は4cm。2018年8月に腸閉塞・膵液瘻などがあり、TS1を2018年9月~内服していたが腫瘍マーカーCA19-9が上昇傾向にあるのでゲムシタビン・アブラキサンも併用となった。
元来白血球数が少ないのでG-CSFを併用しながら隔週で抗がん剤治療継続中だったが、ここにきてCA19-9が急激に上昇してきた。主治医に予後が非常に厳しいという説明を受けて落ち込んでいる。がん遺伝子治療の併用を検討したい。
治療方針 標準治療を補完する立場で、点滴、局所注射により遺伝子治療を実施。
治療経過 2019年3月6日 遺伝子治療のカウンセリング
昨年5月、毎年健診を受けている大学病院で膵臓癌と診断され、6月に別の大学病院で膵尾部 脾臓 左副腎 大腸部分 切除を実施。リンパ節の転移はなかった。腫瘍径は4cm。8月に腸閉塞、膵液瘻などがあり抗がん剤治療中だが、CA19-9が急激に上昇してきた。昨日主治医に厳しい説明を受けて落ち込んでいる。遺伝子治療の話を聞いて希望が持てた。
遺伝子治療は、点滴主体で最初は少量投与から開始、問題なければ2回目以降は増量して10u /回、1週間毎に治療を継続して計100uの投与をまずは目指す。


2019年3月13日
初回は、遺伝子製剤 1Uを点滴にて投与。副作用がないことを確認。
抗がん剤の副作用で両下肢から鼠経部にかけての痺れ・胸部の圧迫感・息苦しさ、目が見えずらい感じがあるとのこと。その他疼痛なし、食事摂取良好、排泄良好。

2019年3月22日~4月5日 3回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤2Uを点滴にて投与。
抗がん剤の副作用である下肢の痺れに対して、ビタミン剤を添加。
「抗癌剤を行っている病院での採血で腫瘍マーカーが上がっていると報告を受け、ショック。採血データを見て一喜一憂してしまうのでこちらでの検査結果は、見せないでほしい。」と。


2019年4月13日~4月26日 3回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤3Uを点滴にて投与。

4/13 WBC(白血球)4000台。抗がん剤があまり効いていない可能性を説明され、今後CTの結果を見て抗がん剤の投与を継続するか判断する方針となっている。

4/20 前回の遺伝子治療後、時折軽度の右下腹部痛あり、エコー施行、異常なし。

4/26 下肢の痺れ軽減し、右下腹部(手術創付近)も時々痛むが軽度であると。食事摂取可能。排便あり。CTの結果、現行の抗癌剤治療を継続とのこと。白血球が下がっていることに対して不安だと。


2019年5月9日~6月24日 5回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤4Uを点滴にて投与。

5/9 腫瘍マーカーについて「皆さんから気にしないようにと言われてはいるけど、値を見ちゃうとやっぱり不安で・・・。嘘でも良くなっていると言われると安心できるんですけど・・・」とご本人より。経済面でも不安を感じておりより長く治療を継続できるよう今後は2週間に1度のペースで遺伝子治療を行う方針。

5/23 術後の腹壁瘢痕ヘルニアについて相談あり。「緊急性はないと言われているが何となく気になる。他院では全身麻酔での手術になると言われ躊躇している。」と。院長より当院では局所麻酔下で手術を行っているとお話ししたところ、興味示され、「体調が落ち着いたらお願いしたい」と。

6/7 先週ぎっくり腰になってしまい、その影響で食事や排泄が進んでいないが、その他の症状は変化ない。

6/11 他院での検査でCA19-9が上昇傾向顕著、Span1も増えているので非常に不安とのこと。次回の遺伝子治療を少し早めて6/14に希望する。投薬量を増やしたいと。


2019年7月4日~7月25日 4回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤8Uを点滴にて投与。

7/19  7/4から遺伝子製剤投与増量し、CA19-9横ばい、STN、SPAN-1は下がってきている。

7/25  抗がん剤治療をしていないからか、体調は快調とまでは言わないが悪くはないと。抗がん剤と併用していると腫瘍マーカーがしっかりと制御できている印象あり。副作用がひどくなければ、抗癌剤も続けた方がよいと説明。


2019年8月3日~10月29日 7回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤10Uを点滴にて投与。

8/16  7月末頃から化学療法の内容は変えていないが下肢の痺れが強くなった気がすると。睡眠などへの影響は出ていない。かかりつけ医での腫瘍マーカーが上がっていることが気になると。漸増傾向であるが比較的安定している印象。

8/23 引き続き四肢の痺れあり、生活動作に影響を及ぼすものではないが不快感が辛いとのこと。CA19-9の推移について非常に気にされている模様。

8/29 痺れは日常生活動作に影響はないが、ひどい時はがくがくと震えがくる時があると。本日より別の遺伝子製剤を投与し、本日の採血結果にて、次回治療投与量を考慮し行っていく旨説明。腫瘍マーカーは横ばいのものもあるが全体として低下傾向あり。投与中に一時的な熱発38.2度あり、投薬し落ち着き帰宅。

9/2 かかりつけの病院での採血検査で、肝臓の数値(ALT103・ALP413・γGT116・CRP2.6)がいつもより急激に高くなっていた。担当医が心配をして明日も採血を行うか確認されていると。前回8/29に新薬を使用して高熱が出たりしていたのでその影響なのか?とのこと。先日の治療にともなうサイトカイン症候群で説明ができると考える。自覚症状が改善傾向にあるのであれば経過観察で良いのでは。できれば明日化学療法前に血液検査を行っておくのが良いと回答。

9/7 前回の化学療法後しばらくは調子が悪かった。四肢の痺れは左>右で強い。味覚障害もある。食欲はある。9/13に知人の病院でPETCTを受ける予定。今回の採血データを元に遺伝子治療の効果判定をしていくと説明。

9/12 今後、化学療法による白血球減少の対応薬であるノイトロジンの投与に関してはかかりつけ医で9/16に採血予定。今後当院での投与が可能であるか相談をするとのこと。ご本人としてはかかりつけ医ではかなり待たされるため可能であれば当院での投与を希望。(現在はかかりつけ医にて隔週投与)


2019年9月20日~10月29日 7回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。

9/20  9/13PETCTの結果は転移を疑う所見が多数あり、かなり落ち込まれたと。本日は急遽局所注射も追加し、局所・腹腔内へ散布することとなる。

9/27 投与中、一時的な右腹部の穿刺ヶ所の疼痛訴えあり。

10/5 今までの通院治療を行っていた大学病院では、転移が見つかったのに同じ治療を継続すると言われ不信感を感じたため、知人の紹介で今後は別の医療機関へ通院することになった。そこでポート造設の手術を受け(10/9-11入院)、より強い抗がん剤治療を受ける予定と。院長により局注開始。終了後覚醒良好。疼痛消失後帰宅。

10/11 昨日右鎖骨下にポート造設し、痛みがまだ少しある。皮膚トラブルなし。本日朝退院して、当院受診したと。

10/16 今日は腰痛がひどい。下肢の痺れは継続中。前回治療後のボルタレンは結局使っていない。と。

10/29  10/18~20でFOLFIRINOX療法実施。10/23退院。投与期間中の副作用はあまり気にならなかったが、投与後1週間程度倦怠感・下痢。入院期間中は食事とれなかった。退院後少しずつ食事摂取可能になり現在は摂取良好。次回は、11/4入院しWBC採血含め検査を行い11/5-7で2回目の投与予定。WBCの動きも見たいと主治医が仰っているとの事で今回ノイトロジン投与希望なし。


2019年11月15日~2020年2月15日 5回投与
1回の治療あたり、遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。

11/15  11/5~11/7まで化学療法と温熱療法も付加して行った。24時間以内に化学療法を行うと効果が上がるとの事で、遺伝子治療は化学療法ではないが、少し期待していますと笑顔。

11/29  11/20~11/22化学療法行い、倦怠感、食欲減退、下痢があり辛かったが、今は落ち着いている。次回12/5~12/7の予定と。本人より「左側は小さくなっているように感じる。右側は大きなっているように感じる」と。エコー上、悪くはなっていない(贔屓目に見て小さくなっている)と説明。

12/16 12/6~12/8に最終の化学療法。12/14から腹部~両下肢足指まで痺れがあり、痛みを感じた。5日程前から右背部肋骨下部に圧痛、体動時痛あり、広がっていないか不安と。局注時エコー確認する。現時点では 腫瘍大きさに変化なし。

1/18 腹部しこりが気になる。押すと痛い。とのことでエコー確認。エコー上しこり部分の腫瘍など所見なし。12月にCT実施し、腫瘍大きさ不変と判断あり。FOLFIRINOXは次回1/23に7クール目実施予定。

2/17 下痢で腸の粘膜が過敏になると腹痛あるが、今は大丈夫と。手指、両下肢の痺れは不変。味覚も甘い感じが広がって、本来の味ではないので不快と。


2020年5月18日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
3/9のCT(持参なし)では、腹腔内・腹壁に残存あるも、縮小とレポートに書いてありましたと。「FOLFIRINOX(50%)は隔週で行っている。副作用で、指のピリピリ感は強くなってる感じ。味覚は甘酸っぱい感じになるが、今は軽くなっている。食事は食べていて、甘い物も摂るようになったからか、体重が46から51kgへ増えた。下痢が2日程度あったが今は問題ない。痛みは、腰椎圧迫骨折のせいか、腰の痛みがあるくらい。コロナの関係で間が空いてしまった。」表情明るくお話しされる。


2020年7月29日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
腫瘍マーカーが横ばいになってきたので18クール目よりFOLFIRINOX(50%)に増量している。副作用は手指・足趾のしびれが強く出ている。味覚障害もあるが増量前とほぼ変わらず、食事摂取良好。左膝裏腫脹あり正座をすると疼痛に対し左膝裏エコー使用。ベーカー嚢腫あり、局注時エコー下左膝裏ベーカー嚢腫穿刺。


2020年9月26日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
PRT/CTで腹腔内病変が消失したと主治医に判断された。右季肋部の腫瘍はエコー上石灰化したといわれ、膵部と左下腹部壁転移巣の切除手術を検討中。審査腹腔鏡検査で評価予定。化学療法は継続している。


2020年10月 転院先で腹腔転移巣切除。
TM増加傾向止まらず、現在腹腔内の転移巣も増大。直腸周囲、胃近傍に径2~3ミリのmassがあると。切除後、腸閉塞症状が急激に発生し、現在入院中。2か所の腸閉塞部分のバイパス手術を行い、減圧治療をしていたが、最近流動食開始後、吐き気、嘔吐があり静観している状況。遺伝子治療はコスト的に厳しいが、一番効いている印象があるので今後の治療について相談したい。早く遺伝子治療を再開したいが、食事がまだとれず動けない。腹膜腫瘍の切除検体の病理検査では、一部にがんの遺残があった(他の部分は正常腫瘍化していた)と。


2021年2月15日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
退院し、遺伝子治療を再開。大学病院で抗がん剤治療(ジェムザール)も並行しているが、頭痛の副作用があるものの吐き気などはなく食事量も変わらない。排便は水様便。


2021年2月25日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
白血球の低下がありジェムザールは治療延期。TS-1は副作用が辛すぎて一時服用中止。


2021年3月9日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
化学療法の副作用が強くて本当はやめたいけど、広がるのも怖い。と。


2021年3月16日 遺伝子製剤10Uを点滴・局所注射にて投与。
3月中旬から吐き気倦怠感、胸やけあり、食事もほとんどできていない。下痢も継続。


遺伝子治療継続の意思は変わらず4月にも予約を入れていたが、退院できず、5月に他界。
治療状況 膵臓がん術後再発(腹壁転移 腹膜播種)、約2年間抗がん剤治療と遺伝子治療を併用し腹膜播種が画像上消失。腹壁転移も縮小傾向にあり、がんとの共存が期待されたが、早急にがんを取り除きたいという患者さんの希望があり標準治療医療機関で腹壁転移巣の手術治療を実施したところ急変。遺伝子治療開始後2年程度安定しており、病気との共存を可能とする治療として遺伝子治療が機能する可能性が示唆された。ただし、医療経済の視点で遺伝子治療の実用的なコスト削減も必要とも考えられた。

化学療法抵抗性の膵臓がん(ステージ4)に対して、補完治療としての遺伝子治療が奏功し、がんとの共存が期待された症例。追加切除の適否は、意見が分かれたが、治療継続による治療費負担の問題もあり切除主手術を断行。残念ながら、術後急変。課題の残る症例。
治療期間 2019年3月~2021年3月(2年1か月)
費用 治療総額:計41回の治療で治療費 計 15,202,000円。(税込)

※遺伝子製剤の投与量単位(U:unit)について
遺伝子治療製剤の投与ボリュームを表現する際に
・Titer: 遺伝子を運ぶウイルスベクター粒子の数または感染価
・ベクターコピー数 
などが用いられます。
投与量単位(U)は、当院で便宜上設定したもので公的な基準ではありません。
具体的には、当院で設定している1Uは1.0×10^8(10の8乗)=1億ベクターコピーに相当します。
治療のリスク 大規模な二重盲検試験が実施されておらず未承認治療です。
注射部の内出血、軽度疼痛、一過性の発熱(37-38℃)など、軽微な副作用がある場合があります。

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