動脈硬化に対する再生医療【自家脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)治療】

動脈硬化とは

動脈硬化とは、血管(動脈)が硬くなり、弾力を失う病気のことを指します。通常、動脈は血液が流れやすいように柔軟性を保っていますが、動脈硬化が進行すると、血管の内壁に脂肪やカルシウム、コレステロールなどが蓄積し、血管が狭く、硬く、厚くなります。これにより血流が悪化し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。 血液中のコレステロールや脂肪などからできた粥状の物質をプラークと言います。プラークは動脈の内壁に蓄積し、徐々に血管を狭めます。この状態がアテローム性動脈硬化です。プラークが不安定化すると破裂し漏出した物質が刺激となって血栓が発生します。その血栓が血管内腔を閉塞し、心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされるのです。

日本人の食生活が欧米化するに伴い、動脈硬化を原因とする疾患の死亡数は年々増えています。血管は加齢現象が最も反映する臓器です。人の生物としての老化度は血管に集約されていると言っても過言ではないでしょう。血管の老化現象である動脈硬化が進むと、心筋梗塞や脳卒中など生命を脅かす重篤な疾患の発生が現実のものとなってしまいます。そして、これら血管の疾患は普通に元気に暮らしている人にある日突然襲いかかります。いわゆる突然死の原因になるのは殆ど全て動脈硬化に起因する血管病です。 つまり、動脈硬化は、その発症を予防し、症状の進行を抑えることがもっとも必要であると言えます。

動脈硬化の主な原因

  1. 高血圧: 血管に過剰な圧力がかかることで、血管内壁が傷つきやすくなります。
  2. 高コレステロール: LDL(悪玉)コレステロールが血管内に沈着し、プラーク(脂肪の塊)を形成します。
  3. 喫煙: 喫煙によって血管が収縮し、血管内皮がダメージを受け、動脈硬化が進行します。
  4. 糖尿病: 高血糖が血管内皮を損傷し、動脈硬化を促進します。
  5. 肥満:内臓脂肪の増加により悪玉のサイトカインの分泌が増えて動脈硬化の進行が加速します。
  6. 加齢・老化:酸化ストレスの増段により、細胞・DNAの変性、血管内皮細胞が障害され、動脈硬化を発症進展します。
  7. 遺伝的要因: 動脈硬化が家族内で発生しやすい場合があります。

動脈硬化進行と影響

動脈硬化が進行すると、以下のような重大な健康問題を引き起こすことがあります:

  1. 心臓:狭心症 心筋梗塞 心不全 不整脈
  2. 脳:脳出血 脳梗塞 一過性脳虚血発作 くも膜下出血
  3. 胸部・腹部: 大動脈瘤 動脈解離
  4. 腎臓: 腎硬化症
  5. 下肢:閉塞性動脈硬化症

予防と管理

動脈硬化を予防するためには、健康的な生活習慣を維持することが重要です。

  1. バランスの取れた食事(コレステロールを下げる食事を心がける)
    ・緑黄色野菜を豊富に食べる
    ・脱水を避ける
    ・減塩を心掛ける
    ・動物性タンパクに偏らない
    ・腹八分
    ・間食しない
    ・就寝前3時間は食事しない
    ・抗酸化サプリメントを利用する
  2. 定期的な運動
    ・毎日7~7.5時間の睡眠
    ・週3~5日以上、20分のウォーキング
  3. 禁煙
  4. ストレス管理
    ・毎日20回の深呼吸
    ・ストレス回避、ストレス消化 (趣味重視、瞑想)
  5. 定期的な健康診断(血圧、血糖値、コレステロール値をチェックする)
  6. 動脈硬化は、症状が進行するまで気づきにくいことが多いため、早期の予防と健康管理が非常に大切です。当院では、動脈硬化の度合いを、血管の硬さ、血管壁の厚さ、血液の酸化度、そして血液検査によって評価します。病的なレベルに達してしまっている方、病的なレベルではないけれども動脈硬化が進んでいるという方に再生医療を提供しています。

動脈硬化と再生医療

動脈硬化の発症リスクである高血圧、脂質異常症、糖尿病などに対する治療薬や、血栓の生成を抑止する抗血小板剤、抗凝固剤は複数存在しますが、動脈硬化の改善を直接促す本質的かつ有効な薬剤は未だ開発されていません。再生医療(幹細胞移植)により、動脈硬化による炎症の抑制と血管新生効果が期待でき動脈硬化症により発生した虚血症状の改善を促す可能性があります。 当院では再生医療の適応疾患として「動脈硬化に対する再生医療」(および「心不全」「動脈瘤」「糖尿病」についても受理済)を厚生労働省に届け出を受理されており、治療実績があります。 動脈硬化症が原因となる心筋梗塞や脳卒中など、突然死や後遺症が残るなどの危機的な状況にならないようにするために最も重要なのは、動脈硬化症を進展させないことです。それにより心筋梗塞や脳卒中の発症、再発を防ぐことが可能になります。動脈硬化症の進展を抑えて致死的な疾患の発症を予防することが治療の目標になります。

参考文献:
1 Am J Stem Cells. 2012;1(3):174-181. Experiment model for coadjuvant treatment with mesenchyma stem cells for aortic aneurysm. Riera Del Moral , Aramburu CL, Garcia JR, de Cubas LR, Garcia-Olmo D, Garcia-Arranz M.
2 Regen Med. 2014;9(6):733-41. Periadventitial adipose-derived stem cell treatment halts elastase-induced abdominal aortic aneurysm progression.Blose KJ, Ennis TL, Arif B, Weinbaum JS, Curci JA,Vorp DA.
3 J Neurointerv Surg. 2018 Jan;10(1):60-65. Autologous adipose-derived mesenchymal stem cells improve healing of coiled experimental saccular aneurysms: an angiographic and histopathological study. Rouchaud A, Brinjikji W, Dai D, Ding YH, Gunderson T, Schroeder D, Spelle L, Kallmes DF, Kadirvel R.
4 Cell Transplant. 2017 Feb 16;26(2):173-189. Human Adipose-Derived Stem Cells Suppress Elastase-Induced Murine Abdominal Aortic Inflammation and Aneurysm Expansion Through Paracrine Factors. Xie J, Jones TJ, Feng D, Cook TG, Jester AA, Yi R, Jawed YT, Babbey C, March KL, Murphy MP.
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脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)療法とは

 身体の中には組織の修復効果を持つさまざまな幹細胞が存在しており、中でも骨髄や脂肪の中に潜む間葉系幹細胞は再生医療の素材として高く注目されています。特に脂肪由来の間葉系幹細胞は骨髄由来のものに比べて以下の優位点があることから研究や治療に広く用いられるようになっています。

  • ・幹細胞を抽出できる脂肪細胞は、骨髄細胞に比較して容易にかつ低侵襲に採取できる
  • ・脂肪由来間葉系幹細胞は骨髄由来と同様の脂肪・骨・軟骨への分化能に加えて骨髄由来にはない筋分化能も持つことが示されている
  • ・脂肪由来間葉系幹細胞は、細胞形態や分化能は骨髄由来と差異はないが、増殖能が強く、増殖に伴う老化の影響や骨分化能の低下が少ない

 この期待できる脂肪由来間葉系幹細胞を体内から取り出した少量の脂肪から分離し、特殊な環境下で大量に培養したものを、体内(患部)に注射や点滴で送達する治療法を、脂肪由来間葉系幹細胞療法もしくは幹細胞移植と呼びます。
 脂肪由来間葉系幹細胞療法は、今まで有効な治療法がない様々な疾患に対して外来治療で対応できる点が高く評価されます。中でも動脈硬化への期待できる治療として国際的に盛んに実施されています。

動脈硬化に対する薬理効果

脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)は、動脈硬化に対して幹細胞移植による血管新生作用、パラクライン作用、免疫調節作用、抗炎症作用のいずれかにより治療効果が期待できることが示されています。

変形性膝関節症に対する脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)治療の流れ

 脂肪由来間葉系幹細胞による治療は具体的には以下のステップがあります。

  1. カウンセリング
  2. 検査:
    ①動脈硬化度CAVI値 
    ②動脈の狭窄度ABI値 
    ③頸動脈のプラーク肥厚度 
  3. 脂肪切除: 腹部や膝裏など、3㎜程度の切開により米粒大数粒の脂肪を切除(局所麻酔で外来処置)
  4. 間葉系幹細胞分離培養: 切除した脂肪細胞から間葉系幹細胞を分離し細胞培養加工室で増殖培養(3-4週間)
  5. 間葉系幹細胞投与: 増殖培養した間葉系幹細胞1億個以上を、症状のある膝関節内への直接注射や点滴により体内へ送達
  6. 経過観察

慢性疼痛に対する脂肪由来間葉系幹細胞治療の適応

 脂肪由来間葉系幹細胞治療は動脈硬化に悩まれる方に対して治療効果が期待されますが、治療適応は以下の1~3になります。

  1. 下記選択基準のいずれかを満たし、動脈硬化性病変を有すると判断される方。
    ・CAVI値(心臓足首血管指数)≧8.0
    ・ABI値(足関節上腕血圧比)≦0.9
    ・頸動脈エコー検査で頸動脈(総頚動脈、内頚動脈)にプラーク(IMT≧1.1)を有する
  2. 以下のいずれかに該当する方。
    ・心筋梗塞、狭心症の既往がある
    ・冠動脈CT検査で冠動脈壁不整、石灰化、狭窄、閉塞所見を有す
    ・脳梗塞の既往がある
    ・頭部MRI、MRA検査で脳梗塞巣が指摘される
    ・二親等内の血縁者に動脈硬化性疾患を有する方が2名以上いる
    ・遺伝子検査で動脈硬化の素因が高いと判断された
  3. 以下の疾患をお持ちで、既存治療(保存的治療、手術的治療)だけでは症状の改善が不十分な方。
    ・脳梗塞
    ・心筋梗塞
    ・閉塞性動脈硬化症
    ・バージャー病

脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)治療の実際の症例

【再生医療】症例(3)80代女性 動脈硬化(肘の慢性疼痛もあり)
【再生医療】症例(4)90代女性 動脈硬化(および慢性疼痛)
【再生医療】症例(6)50代男性 動脈硬化

治療評価について

当院では、動脈硬化に対する再生医療(幹細胞治療)治療を以下1~3を基に評価しています。

  1. 動脈硬化度 CAVI値 
  2. 動脈の狭窄度 ABI値 
  3. 頸動脈のプラーク肥厚度 IMT値
下記は、「第9回 北青山Dクリニック特定認定再生医療等委員会」で報告した治療経過の結果です。25例の治療経過ですが、いずれの検査おいても軽度の改善が確認され、本治療は動脈硬化症に対して有効であると評価しています。

1.動脈硬化度 CAVI値:数値が大きいほど動脈硬化の程度大

2.動脈の狭窄度 ABI値:1以下の場合は血行障害あり

3.頸動脈のプラーク肥厚度:1.1mm以上でプラーク(病的な状態)と診断

出典:「第9回 北青山Dクリニック特定認定再生医療等委員会 定期報告書」より

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