下肢静脈瘤のハイブリッド治療doctor-blog

全身麻酔が不要でメスを入れない下肢静脈瘤の日帰り手術が国内に広く普及しています。下肢静脈瘤の治療は血管外科医にとっては何ら難しい治療ではありません。血管外科医が腕を磨くために注力するのは動脈瘤や閉塞性動脈硬化症などの「動脈」の疾患に対する治療で、高度な医療技術がそれほど求められないと見なされている「静脈」の治療には殆ど目が向けられて来ませんでした。
一方で、昨今、下肢静脈瘤に対する様々な治療技術が開発され、身体に負担のかからない複数の低侵襲治療が提供されるようになり、治療を受ける患者さんが急増しています。下肢静脈瘤は、治療を受ければ患者さんの生活の質が大きく改善されます。そして治療に対する満足度も高いことから、最近は血管外科医の多くが下肢静脈瘤診療に精力的に取り組むようになっています。そもそも下肢静脈瘤の罹患人口は非常に多いのでその治療に従事する血管外科医も以前に比べて大幅に増えています。また、最近では、形成外科医、皮膚科医、さらには放射線科医など従来は下肢静脈瘤を専門に担当しない科の先生方も下肢静脈瘤の血管内治療に取り組まれるようになってきました。
下肢静脈瘤の治療を複数の科が対応するようになり治療担当医が増えたことは歓迎されますが、残念ながら適切な治療が実施されていない例をしばしば目にします。下肢静脈瘤の治療は上述のように技術的には難しくありません。ただ、静脈瘤には様々なバリエーションがあるため、適切な治療戦略を選択するのが難しい場合があります。安易に画一的な治療を施しても症状が改善しないばかりか悪化することもあります。昨今、他院の診断に納得できずにセカンドオピニオンを目的に当院を受診する例が増えており、話を聞くと担当医が適切な診断や評価をしているとは思えない例が少なからずあります。
繰り返しになりますが、下肢静脈瘤の治療法一つ一つは技術的に難しいものではありません。しかし、バリエーションの豊富な下肢静脈瘤に対して適切な治療法を選択するには、豊富な治療経験と丁寧な診察及び柔軟な臨床的思考が担当医に求められます。私たちは、20年前に下肢静脈瘤の日帰り根治手術(ストリッピング手術)を考案してから、下肢静脈瘤に対して台頭してきた種々の最先端治療を先導してきました。血管内レーザー焼灼術、経皮的レーザー(体外照射レーザー)治療、フォーム硬化療法、血管内高周波焼灼術、そして、CAE(医療用瞬間接着剤:スーパーグルー、シアノアクリレートによる血管塞栓術、ベノクローズ)など、下肢静脈瘤治療で使用されるあらゆる治療法(モダリティ)を下肢静脈瘤の病態に応じて適切に提供することに心がけています。これまでの経験から、現在私たちが最も強みとしているのは、複雑なものも含めてすべての下肢静脈瘤に全くメスを入れない低侵襲治療で対応していることです。さらに、治療負担を最小限にとどめるために、前述の複数の治療モダリティを組み合わせて、患者さんの様々な治療ニーズに応えられるよう配慮しています。例えば、昨今では弾性ストッキングの着用が原則として不要なCAE(ベノクローズ)をベースに、逆流の強い伏在静脈起始部や拡張の大きい瘤の部分に対しては高波長のレーザーを使用するなど、最小限の負担で最大の治療効果を得られるように工夫しています。また、病的な症状ではないと考えられている細かな赤や紫の静脈瘤に対しては、患者さんのニーズに応じて経皮的レーザーを用いたきめ細かい治療で対応しています。
このように、病態が決して単純ではなく患者さんの治療ニーズも様々な下肢静脈瘤の治療においては、複数の治療モダリティを駆使した「ハイブリッド治療」が必要になることが少なくありません。一見簡単に見える下肢静脈瘤の治療ですが、病態に対して最適なハイブリッド治療を考案、選択するには、豊富な治療経験と技術そして柔軟な臨床的思考が担当医に求められるのです。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会