下肢静脈瘤外来根治治療の歩みdoctor-blog

医療の進化は、新しい医療技術の発見・発明と、その応用の繰り返しにより成されてきた。とかく日本人は前者が不得手で後者が得意とされ、新しい医療アイディアを創り出すのは専ら欧米人で、それを模倣し発展させるのが日本人と、役割が決まっている、とよく言われる。しかし、日本人も、コロンブスの卵よろしく、世界中の誰もが思いつかなかった、やってこなかった革新的な医療を生み出すことは多々ある。IPS細胞の発見ももちろんそうであり、新しい消化管内視鏡技術の発案は欧米の追従を許さない。
一方で、日帰り手術という概念は2000年当時には日本には根づいていなかった。もしくは機能病院の経営体制から日帰り手術という領域の開拓は前向きに進められるものではなかった。しかし、米国の外科医より手術技術が優れている(少なくとも私はそう感じている)日本の外科医が、欧米でこともなげに行われている日帰り手術を実践できないわけがない、とかねてから考えていた。それが、2000年に開業したときに日帰り手術を診療の主軸に置くことに決めた動機の一つである。
下肢静脈瘤の手術は、2000年当時、純然たる日帰り手術で実施されていなかった。日帰り手術に息吹が与えられようとしていた時期ではあったが、日帰り手術といっても「手術後24時間以内に退院すること」と定義され、ある日の午前9時に入院して手術を受け、翌日の朝9時前に退院すれば日帰り入院とされる、わけのわからない定義が成り立っていた。
下肢静脈瘤の手術は決して難しいものではない。研修医が最初に行う手術として下肢静脈瘤がしばし選択される。しかし、疾患の特性として個人差が大きく時に非常に複雑なケースもあり治療経験が治療成績に大きく影響するのも事実だ。また、命に直接関与する疾患ではないために、悩める患者さんの数は非常に多いにもかかわらず、医療機関があまり真剣に取り組んで来なかった疾患でもある。
私は、たまたま、癌の手術と血管の手術を専門とする医療環境の下で研鑚を積むことができたため、下肢静脈瘤の治療に従事する経験に多く恵まれた。かつ、開業当初、一般的には1週間前後の入院が必要であった下肢静脈瘤の手術を、日帰り(24時間以内の退院という建前の日帰りではなく純然たる意味での)、すなわち、医療機関に1~3時間程度の滞在ですむ外来手術という形で実施する方法を考案した。それも、高位結紮、硬化療法という簡便な手術ではなく、根治的治療であるストリッピング手術を、外来手術として安心・安全に実施する手法を確立した。
その後まもなくして、国際的には、レーザー治療が芽生え出した。しかし、根治性から考えてストリッピング手術には及ばないとされ、さらに、レーザーの手術は傷跡は目立たないが、術後の痛みや出血が相応に大きく、かつ、治療成績も不十分なものであった。しかし、その後、レーザー機器が開発され、治療の負担も少なく根治性が大きいという優れたレーザーが世に出るようになった。そのレーザーが国内に登場しだした2005年当時、国内ではいち早くそのレーザーを採用し、レーザーによる下肢静脈瘤の根治手術に取り組んだ。そして、通常の根治的手術とされていたストリッピング手術とレーザー手術との治療成績比較について、2007年の京都での国際学会で発表し、ストリッピング手術にレーザー治療は引けを取らない可能性があることを提示した。
そして、レーザー手術は軽症の下肢静脈瘤にしか行われていなかった2008年当時、日本静脈学会で、皮膚病変を持つ重症例の下肢静脈瘤に対しても適切なレーザー治療を行えば根治は可能であり、かつストリッピング手術より再発する可能性が低いことを示唆した。2010年には、水吸収率が最も大きく治療効果が大きいとされる波長2000nmのレーザーと、他レーザーとの治療成績を比較し、治療成績・合併症頻度・治療満足度の点でやはり、2000nmのレーザーが最も優れていることを、日本静脈学会で提示した。
私は、下肢静脈瘤の外来根治手術を考案、実践し、その後、レーザー治療機器を選定した上で高品質のレーザー治療にいち早く着手し、その治療成績の検証を進め、公表してきたことにより、現在広く普及している下肢静脈瘤血管内レーザー治療の浸透に寄与したと自負している。現在は、多くの先生方が、レーザー治療の経験を持ち、その経験を学会や論文で発表し、教科書も世に出るようになった。2012年の日本血管外科学会では、まだ誰も実践していなかった2000年前後から下肢静脈瘤外来根治治療を開発し積極的に推進してきた立場として、「下肢静脈瘤外来根治治療の歩み」としてそれまでの集大成を発表した。
その発表をまとめたものを参考までに掲載した(以下、専門的な内容なので興味のある方のみ目を通してください)。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会