認知症に対する再生医療【自家脂肪由来 間葉系幹細胞(MSC)治療】

認知症(認知機能障害)とは

認知症とは、記憶や思考、判断力、言語能力など、認知機能が低下する病気の総称です。通常、高齢者に多く見られますが、若年性認知症(65歳未満)も存在します。認知症は、日常生活に支障をきたし、社会的・職業的な活動を困難にすることに加えて、増悪すると家族や周囲の方々に時間的、肉体的、心理的負担を強いることにもなり、社会的損失を招く厄介な疾患です。 高齢化社会の現代においては、認知症の患者数は2030年には523万人にのぼり(厚生労働省研究班 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計より)高齢者の14.2%を占めると推計されています。2022年の調査時点の443万人から8年間で約80万人増え、更に2050年には587万人、2060年には645万人と増加傾向が続くという予想です。認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も2030年に593万人、2060年には632万人まで増えると推計され、この軽度認知障害(MCI)も含めた全認知症患者数は2030年には1100万人を超えることが見込まれます。

出典:厚生労働省研究班 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計

認知症の主な原因

認知症の原因にはいくつかの種類があり、最も一般的なものは以下の通りです:

  1. アルツハイマー型認知症:
    最も多く、認知症患者の約60~70%を占めます。脳の神経細胞が徐々に死んでいく病気で、記憶障害 が初期の症状です。認知症の進行に伴い、判断力や言語能力、物の認識能力なども低下します。
  2. 血管性認知症:
    脳への血流が障害されることによって引き起こされます。脳卒中などによる血管の問題が原因で、 認知機能が低下します。症状は、突然発症することが多いです。
  3. レビー小体型認知症:
    脳内にレビー小体という異常なタンパク質が蓄積されることにより発症します。幻視やパーキンソン 症状(震え、筋肉の硬直、運動障害など)が見られることが特徴です。
  4. 前頭側頭型認知症(ピック病):
    主に前頭葉と側頭葉が萎縮する病気で、性格の変化や社会的な行動の問題が初期症状として現れます。

主な症状

認知症の症状は個人差がありますが、共通するものとして以下のような症状があります:

  1. 記憶障害(特に新しい情報を覚えられない)
  2. 判断力の低下(判断を誤ったり、日常的な決断ができなくなる)
  3. 言語障害(言葉が出てこない、会話の理解に困難を感じる)
  4. 場所や時間の認識障害(場所や時間が分からなくなる)
  5. 行動や性格の変化(無関心、怒りっぽくなる、社会的な状況に適応できなくなる)

診断方法

認知症の疑いがある場合、患者さん本人や家族に記憶力の低下や日常生活での困難、 行動の変化などの症状について問診の上で、ミニメンタルステート検査(MMSE)を活用するのが一般的です。 他に血液検査で、軽度認知障害(MCI)の状態を検出する「MCI検査」や、「脳ドック(AI併用)」も有用です。

【MSSE試験とは】

MMSE(Mini-Mental State Examination)検査は、認知機能の評価を行う検査です。特に認知症のスクリーニングに広く使用されています。この検査は、患者の記憶力、注意力、計算力、言語能力、視空間能力、さらには実行機能(計画や判断の能力)など、いくつかの認知機能をチェックすることができます。

MMSEの主な評価項目
  1. 時間と場所の見当識(日時や場所についての理解)
  2. 即時再生(言葉を聞いた直後にその言葉を覚えているか)
  3. 遅延再生(少し時間をおいてから言葉を思い出せるか)
  4. 計算(簡単な足し算や引き算)
  5. 言語能力(物の名前を言えるか、簡単な命令に従えるか)
  6. 視空間能力(図形を描く能力や形をコピーする能力)
スコアの評価

MMSEは、通常30点満点で採点されます。点数が低いほど、認知機能に障害がある可能性が高いことを示唆します。具体的な評価基準は、患者の年齢や教育レベルによって異なることがありますが、一般的には以下のように解釈されます:


  • 24点以上:正常範囲
  • 20~24点:軽度認知障害(MCI)の可能性
  • 20点以下:認知症の疑い
  • MCI検査

    アルツハイマー病の原因物質である「アミロイドβペプチド」は、脳内から脊髄液を介して血液に排出されます。「アミロイドβペプチド」は、脳内に蓄積し、神経細胞にダメージを与え、記憶や認知機能を担うシナプスを障害すると言われています。
    このMCI検査は、「アミロイドβペプチド」を脳内から排出したり、そのシナプスへの攻撃から防御したりする働きを持つ3 種類のタンパク質( APOA1、TTR、C3 )の血中濃度を調べます。その測定値から、統計学的手法により認知機能障害の程度を推定するものです。

    脳ドック(AI併用)

    脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)予防や脳腫瘍早期発見を意図した脳ドックにプラスして、 AIによる脳MRI画像(特に記憶中枢である海馬周囲)の解析と 認知心理CQテストにより認知機能を厳密に評価します。 脳萎縮度や認知機能レベルをAIによる解析で評価し、 適切な対策を講じることで、認知症の発症を予防することが可能になります。40代、50代の早い段階からの予防としてもご提案します。

    治療とケア

    認知症は完全に治ることは現在のところありませんが、進行を遅らせる治療法や、症状を和らげるための対症療法が存在します。薬物療法としては、アルツハイマー型認知症に対しては「コリンエステラーゼ阻害薬」や「NMDA受容体拮抗薬」が使われることが一般的です。これらの薬は、記憶や認知機能の低下を遅らせる効果があります。 また、非薬物療法として、認知症の進行を遅らせるために、脳を活性化させるためのリハビリテーション(例えば、記憶のトレーニングや手先を使う活動)や、生活の質を保つための介護、環境整備が重要です。

    予防

    脳は加齢とともに萎縮しますが、生活習慣や様々な病気でそれが早くなることが分かっています。一方、脳に良い生活習慣を続けることで脳の加齢が抑えられる減少も確認されています。 アルツハイマー型認知症は、発症するまでに非常に長い期間(数十年)を要するので、発症前の軽度認知障害(MCI)の段階で異常を発見して、40代、50 代の早い段階から認知症発症の予防に心がけることが大切です。認知症の予防には、健康的な生活習慣が重要です。具体的には、以下のような取り組みが推奨されています。

    1. 運動(定期的な運動は脳を活性化させる)
    2. バランスの取れた食事(野菜や魚を中心にした食事)
    3. 社会的な活動(人との交流を持つことが認知機能の維持に役立つ)
    4. 脳を使う活動(読書やパズル、学習など)
      例えば、社会活動や精神活動に積極的に取り組み、脳の広範囲を活性化させる指を使う作業や脳神経をバランスよく興奮させる創造的作業が発症予防策として期待できます。
    5. サプリメントの摂取
      ガングリオシド、クルクミン、フェルラ酸、イチョウ葉など脳機能に改善効果が期待される素材を含むサプリメントの摂取。
    6. 認知症の早期発見と早期対応が重要で、疑いがある場合は専門医に相談することが推奨されます。

    認知症と再生医療

    社会の高齢化が進む中で、認知症の有病率は増加の一途であり、その主因となるアルツハイマー病を始めとした脳神経変性疾患に対する有効な治療法の開発が急務です。しかし、アルツハイマー病の原因と考えられるアミロイド蛋白の生成阻止、除去あるいは凝集阻害などの薬理作用を有する疾患修飾薬開発への努力が続けられているものの、いまだに積極的に使用できる有効な薬剤の開発には至っていません。2024年には、アミロイドβの脳内凝集を阻害する新薬として日本のエイザイと米国のバイオジェンが開発したレカネマブというモノクローナル抗体薬がついに国内で認可され、画期的な薬剤として脚光を浴びましたが、年間の治療費が300万円と保険医療財政逼迫リスクがあり、脳萎縮や脳出血など副作用も無視できないことから、現場ではその活用に慎重にならざるを得ない状況です。
    一方、認知症は、軽度認知障害(MCI)の状態を経て発症することが知られており、MCIの段階で症状の進行を抑える、もしくは症状を改善させることができれば認知症の多くはその発症を予防することが可能と考えられています。当院では再生医療の適応疾患として「認知症に対する再生医療」(および「加齢に伴う身体的生理的機能の低下」についても受理済)を厚生労働省に届け出を受理されており、MCIの改善に関する治療実績があります。MCIの改善、認知症発症を予防することが再生医療の主目標になります。

    参考文献:
    1 SSCR 9th Annual Meeting.June15-18,2011, Toronto, Canada, poster session ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞によるアルツハイマー病治療の可能性 Takeshi Katsuda, Reiko Tsuchiya, Fumitaka Takeshita, Yasuyuki Sakai, Takahiro Ochi
    2 Methods in Molecular Biology. 2015;1212:171-181 Potentia Application of Extracellular Vesicles of Human Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cells in Alzheimer’s Disease Therapeutics. Takeshi Katsuda, Katsuyuki Oki, Takahiro Ochiya
    3 J Pharmacol Sci. 2014;126:293-301 Therapeutic Potential of Human Adipose-Derived Stem Cells in Neurological Disorders.afety Keun-A Chang, Jun-Ho Lee, Yoo-Hun Suh
    4 Clin Exp Med. 2016;16:451-461 Human Adipose-Derived Stem Cells Stimulate Neurogeneration. Ruslan F. Masgutov, Galina A. Masgutova,Margarita N. Zhuravleva, Ilnur I. Salafutodinov, Regina T. Mukhametshina, Yana O. Mukhamedshina, Luchiana M. Lima, Helton J. Reis, Andrey P. Kiyasov, Andras Palotas, Albert A. Rizvanov
    5 Int J Mol Sci. 2014 Oct 23;15(10):19226-38. doi: 10.3390/ijms151019226. Stem cell treatment for Alzheimer's disease. Li M, Guo K, Ikehara S.
    6 J Pharmacol Sci. 2014;126(4):293-301. doi: 10.1254/jphs.14R10CP. Epub 2014 Nov 18. Therapeutic potential of human adipose-derived stem cells in neurologicaldisorders Chang KA1 Lee JH Suh YH

    脂肪由来間葉系幹細胞療法とは

    身体の中には組織の修復効果を持つさまざまな幹細胞が存在しており、中でも骨髄や脂肪の中に潜む間葉系幹細胞は再生医療の素材として高く注目されています。特に脂肪由来の間葉系幹細胞は骨髄由来のものに比べて以下の優位点があることから研究や治療に広く用いられるようになっています。

    • ・幹細胞を抽出できる脂肪細胞は、骨髄細胞に比較して容易にかつ低侵襲に採取できる
    • ・脂肪由来間葉系幹細胞は骨髄由来と同様の脂肪・骨・軟骨への分化能に加えて骨髄由来にはない筋分化能も持つことが示されている
    • ・脂肪由来間葉系幹細胞は、細胞形態や分化能は骨髄由来と差異はないが、増殖能が強く、増殖に伴う老化の影響や骨分化能の低下が少ない

    この期待できる脂肪由来間葉系幹細胞を体内から取り出した少量の脂肪から分離し、特殊な環境下で大量に培養したものを、体内(患部)に注射や点滴で送達する治療法を、脂肪由来間葉系幹細胞療法もしくは幹細胞移植と呼びます。
    脂肪由来間葉系幹細胞療法は、今まで有効な治療法がない様々な疾患に対して外来治療で対応できる点が高く評価されます。中でも認知症への期待できる治療として国際的に盛んに実施されています。

    認知症に対する薬理効果

    脂肪由来間葉系幹細胞は、動脈硬化に対して幹細胞移植による血管新生作用、パラクライン作用、免疫調節作用、抗炎症作用のいずれかにより治療効果が期待できることが示されています。

    認知症に対する脂肪由来間葉系幹細胞治療の流れ

     脂肪由来間葉系幹細胞による治療は具体的には以下のステップがあります。

    1. カウンセリング
    2. 検査:
      ①MMSE検査
      ②認知機能簡易テスト 
    3. 脂肪切除: 腹部や膝裏など、3㎜程度の切開により米粒大数粒の脂肪を切除(局所麻酔で外来処置)
    4. 間葉系幹細胞分離培養: 切除した脂肪細胞から間葉系幹細胞を分離し細胞培養加工室で増殖培養(3-4週間)
    5. 間葉系幹細胞投与: 増殖培養した間葉系幹細胞1億個以上を、点滴投与により体内へ送達
    6. 経過観察

    認知症に対する脂肪由来間葉系幹細胞治療の適応

    脂肪由来間葉系幹細胞治療は認知症に悩まれる方に対して治療効果が期待されますが、治療適応は以下の1~10になります。

    1. 軽度認知障害( MCI )に典型的な、記憶障害の訴えが本人または家族から認められる、 ないしは客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる。
    2. 頭部 MRI ・ CT 検査で脳の萎縮を認める。
    3. VSRAD 検査で海馬の萎縮が認められる。
    4. 一定期間 以上下記 ①~⑤のうち一つ以上の認知機能障害がみられる。
    5. 記憶(特に早期)、あるいは新たなことを覚えること
    6. 注意あるいは集中力
    7. 思考(例:問題解決や抽象化における緩徐化)
    8. 言語(例:理解、喚語)
    9. 視空間機能視空間機能
    10. 以下①~㉛の認知症に典型的な症状 を認め、担当医が認知機能障害であると判断した 。
      ①知っている物や、身近な人物の名前が思い出せない。
      ②「あれ」や「それ」などの代名詞を使って会話をすることが増える。
      ③妻、夫、息子、娘、孫などの身近な人物の名前が思い出せなくなる。
      ④物を置き忘れたり、しまい忘れたりすることが多くなる。
      ⑤買い物から帰ってきて、置いた荷物をそのまま放っておいてしまう。
      ⑥水道やガス栓を閉め忘れる。
      ⑦財布や鍵を、どこに置いたか思い出せない。
      ⑧同じ話を何度も繰り返す。
      ⑨同じ質問を何度もしたりする。
      ⑩同じ相手に、同じ用件で何度も連絡する。
      ⑪何をするのも億劫な気分になり、みだしなみにも構わなくなる。
      ⑫いままで好きだった物に対する興味や関心がなくなる。
      ⑬やる気がなくなり、趣味で通っていた習い事などにも行く気がしなくなる。
      ⑭ぼんやりとしていることが多くなる。
      ⑮会話についていけなくなる。
      ⑯相手の表情や感情を読み取ることができなくなる。
      ⑰相手が何を話しているのか、会話の内容がわからなくなる。
      ⑱複数人で会話をしているときに、話の意味がわからなくなる。
      ⑲予定を忘れる。
      ⑳手帳を見ないと予定がわからなくなる。
      ㉑約束の時間に遅れたり、日にちを間違えたりする。
      ㉒予定を忘れたことに気づかない。
      ㉓最近の出来事が思い出せない。
      ㉔数日前に家族で出かけたことを忘れる。
      ㉕数時間前に食事をしたことを忘れる。
      ㉗かかってきた電話に応対して切った直後に、電話がかかってきたことを忘れる。
      ㉘道に迷う。
      ㉙いつも通っているはずの道なのに、自分のいる場所がわからなくなる。
      ㉚よく知っている道のはずなのに、見知らぬ場所に思えて道順がわからなくなる。
      ㉛歩いている途中で、どこに向かっていたのかを思い出せなくなる。

    脂肪由来間葉系幹細胞治療の実際の症例

    【再生医療】症例(1) 60代男性 認知機能障害(レビー小体型認知症)

    治療評価について

    >>YouTube(北青山D.CLINIC公式チャンネル)で視聴する

    当院では、認知症に対する再生医療(幹細胞治療)治療を

    1. 認知機能簡易テスト 
    2. MMSE 検査  
    を基に評価しています。 下記は、「第8回 北青山Dクリニック特定認定再生医療等委員会」で報告した治療経過の結果です。15例の治療経過ですが、認知機能テスト結果の改善が確認され、本治療は認知機能障害に対して有効であると評価しています。

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