【動画解説】再生医療の現状と課題③
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)療法のメカニズム・特長(全6話中第3話)
2020年6月27日開催の院長のオンライン講演会から『再生医療の現状と課題 ③間葉系幹細胞療法のメカニズム・特長』(全6話中第3話)の内容をご紹介します。
第3話では「間葉系幹細胞療法のメカニズム・特長」がテーマです。例えば、血管に注入した幹細胞は、どのようなしくみで治療効果をもたらすのか。間葉系幹細胞の治療効果の本態であるホーミング効果、パラクライン効果を解説します。また、間葉系幹細胞投与の安全性についても言及しています。
現在、日本での再生医療は、「再生医療等安全確保法」の下、厳格に管理されています。法律で定められた「特定認定再生業等委員会」に「治療提供計画」を提出して、厚生労働省に認可を受けて初めて実際の治療の提供ができます。北青山D.CLINICでは、特定認定再生業等委員会を組織し、院内にCPC(細胞培養室)を設け、現在、認知機能障害、動脈硬化、認知機能障害、神経変性疾患、心不全、慢性肺疾患、慢性腎臓病、肝機能障害、スポーツ障害などの治療適用の認可を受け、再生医療の提供を行っています。
【動画情報】
テーマ:「再生医療の現状と課題」③間葉系幹細胞療法のメカニズム・特長 (全6話中第3話)時間:7分50秒(第3話)
公開日:2020年6月27日
講演者:北青山D.CLINIC 院長 阿保義久(医師)
【このテーマの動画(全6話)】
第1話 ①再生医療とは第2話 ②そもそも幹細胞とは
第3話 ③間葉系幹細胞療法のメカニズム・特徴(このページ)
第4話 ④幹細胞投与のための細胞加工
相5話 ⑤安全性と治療適応
第6話 ⑥治療成績及び今後の期待と課題
【全文】
はじめに
では3つ目のお話、3つ目のカテゴリーになりますね。
3つ目のカテゴリーは、間葉系幹細胞の作用メカニズム特徴、そのあたりについてちょっとお話します。
なぜ静脈や動脈投与で効果を生むのか?
実際にこの間葉系幹細胞というのはどういう形で投与されるのかということなんですけれども、
その組織が壊れたその場所に注射で投与することもありますが、多くは点滴いわゆる静脈から投与したり、
場合によっては動脈にカテーテルを入れて投与したりするんですね。そのように血管の中に幹細胞を注入して、その壊れてしまったところや、治さなければいけない対象部分にどのように届くのか、これがよく皆さんから質問を受けます。
その理由の1つに、ホーミング現象、ホーミング効果という幹細胞にある独特な性質がポイントになります。
すなわち、体の中に移植というか点滴などで注入した幹細胞が、ニッチと呼ばれる壊れてしまったところ、組織が弱ってしまったところに勝手に集まっていくんですね。
その病変部分に集まっていって、そこでサイトカインとか、接着因子と言われるような組織を修復する物質をその部分に供給してくれます。
幹細胞の方でもその組織の、もしくは病変部分からのメッセージをちゃんと受理して病変部に集積していく。
こういう微小物質の細胞間メッセージのやり取りによってホーミング現象という幹細胞が勝手に体の中でおかしいところに集まっていくという性質が確保されています。
間葉系幹細胞の持つ現象・効果
ホーミング効果によって、幹細胞はおかしいところまで集まっていって、パラクライン効果によって薬理効果を発揮する。
大きく分けてこの2つの効果が再生医療の幹細胞の働きになります。
ホーミング現象
ホーミング現象というのは、今お話したように、ここに描いているのは幹細胞を表しているんですけども、壊れてしまった臓器の部分から色々なメッセージ物質が出ていてそれを甘受した幹細胞がそこに集まっているんですね。
ですので注射をして体の中に入れても、こういうおかしいところに勝手に集まっていってくれる。
さらにそこに集まっていった場合に、パラクライン効果でそのターゲットとなる病的な細胞に集まっていった幹細胞が薬理効果のある微小な物質を放出させて提供していく。
それによってこの壊れた細胞が修復される。これが一番メインの治療効果になります。
細胞間効果の種類
このパラクライン効果というのに類似した呼び名で、オートクライン効果ですとか、エンドクライン効果というものもあります。オートクライン効果というのは、よくがん細胞が使う効果です。がん細胞は自分自身を増やしていかなければいけない、大きくしなきゃいけない、そういう時にこのオートクライン効果というものを発揮します。
エンドクライン効果というのは、これは遠く離れたところに細胞がメッセージを送る。これはある意味、ホルモンですね。ホルモンのような働きをエンドクライン効果という。
幹細胞は独特な効果として自分自身が病的なところまで集まっていってそこで直接隣に合わせるような形で薬理効果のある物質を放出する。そういう作用が特徴的です。
間葉系幹細胞の治療効果の本態
今お話したことをこちらにまた繰り返し書いているんですけど、このパラクライン効果という、隣まで近づいていって幹細胞がいろいろな薬理効果を出す作用としては、
免疫系の制御、免疫が暴走しないように、免疫が弱まらないように制御することだったりとか、必要な血管をつくったり、炎症を鎮めたり、活性酸素のダメージを修復してくれたり、あとは、細胞が自己死、自殺というんですけど、細胞が不必要に死んでいくことがないように作用したり、組織を修復する作用をしたり、このような様々な作用を幹細胞は行い、担っています。
間葉系幹細胞とがんとの関係
よく言われるのが、iPS細胞のように組織幹細胞、体性幹細胞である間葉系の幹細胞はがんになるということはないのか?ということです。
これは、いろいろな研究成果から発がんリスクは間葉系の幹細胞にはないということが示されています。
ただ、がん細胞に対して間葉系の幹細胞は集まっていくということはわかっています。
そこで集まっていた幹細胞は抗炎症作用などの抗腫瘍効果を示すという報告もあるんですが、
ただまだこのあたりは未知の部分があるので、がん治療に対して直接幹細胞を使うということは、現場では行われていません。
むしろがんの治療を行っている方々に幹細胞投与を行うのは慎重に今は経過を見ているという状況です。
なぜならば実験モデルでがん細胞と幹細胞を同時に培養すると、これは実際の体の中でこういうことはないんですけど、
がん細胞と幹細胞を無理くり合体させて同時に培養すると、がん細胞も幹細胞も増殖するということが報告されているので、
これは普通の体の中で起きるわけではないんですけれども、今お話ししたように間葉系幹細胞をがん治療に応用するというのはまだこれからということになると思います。
再生医療は法律で管理されている
実際にこの幹細胞に関しては、保険診療は先ほどお話ししたいわゆる脊髄損傷にしか認可が通っていないので、一般的には自由診療、自費の診療になります。 ただ、厚生労働省が再生医療に関してはしっかりと管理をするという方針を表明していて法律が制定されています。再生医療等安全確保法というものが2010年の11月に制定されていて、これは自由診療、臨床研究という形で行うことを認めたものなんですが、細胞培養加工施設もそうですし、実際に再生医療を行う提供医療機関の施設基準に関して明確に法律文書が規定しております。
再生医療等安全確保法による管理
さらに実際に治療提供計画を申請をして受理を受けないと、治療が行えないという形でしっかりと管理されているという現状があります。 すなわち、実際にこの再生医療を現場で行うには、医療機関でまず治療提供計画書を作成して、特定認定再生業等委員会という、これは特別な組織なんですけれども、 その組織の委員で審査を厳重に行なって、それで認可が得られた場合に厚生労働大臣の方に計画書を提出して、その許認可の元で治療の提供が開始という、複数のステップを経なければいけないという厳格な管理になります。 もちろん我々北青山D.CLINICも、この管理下で法に基づいて治療を行っています。