がん遺伝子治療(CDC6 RNAi 治療)は、そのほとんどが、末期がんと診断されて余命宣告を受け、期待できる標準治療が無いと判断された患者さんに対して提供されています。 患者さんも我々も、この治療により奇跡的な回復を期待して治療を行っています。
しかし、回復を期待する末期がんの患者さんを完全に治す(がんを完全に消す)治療というレベルには残念ながらまだ到達していません。
それでも、末期がんの方が、現代医学の常識では考えられない回復を見せたり(原発がんが消える、骨転移が消えるなど)、顔色が良くなったり、食欲が出たり、痛みが軽減したりなど、一定の効果は得られており、生活の質が改善するケースを多々経験しています。
また、進行がんの方(末期がんではない)が、発症後5年以上の間元気に日常生活を送り続けているという状況も、がん遺伝子治療で実現できています。5年というのはがんを克服して生存できる可能性が大きいとされる年数です。
がん遺伝子治療は化学療法のような激しい副作用がありません。現在の化学療法薬(抗がん剤)は非常に進化してきましたが、化学療法をし続けても、殆どのがんは克服することはできません(白血病など化学療法により根治する例外はあります)。また、一般的に化学療法はいずれその毒性により治療が継続できなくなります。一つの化学療法薬が効かなくなるとまた異なる化学療法薬を選択することになりますが、その過程で徐々に体力が蝕まれ生活の質が落ちていくことは避けられません。私は化学療法を否定する立場ではありませんが、がん遺伝子治療は、生活の質を殆ど落とすことなく回復が期待できる点が注目に値するポイントの一つだと思います。
先述のように、がん遺伝子治療の対象は、有効な標準治療が見出せない、進行がん、末期がんの方々が主ですが、現在一人だけ早期がんの患者さんが遺伝子治療を受けています。その方は早期の乳がんで、標準治療である手術治療を忌避してがん遺伝子治療を切望されました。がん遺伝子治療は科学的エビデンスが十分ではない未知の部分が多い治療で、この治療により不幸な転帰となる可能性があることを受け入れてその患者さんとそのご主人は、遺伝子治療を切望されました。私は根治する確率が極めて大きい標準治療(手術、ホルモン療法)を勧めましたが、二人は断固として遺伝子治療を受けることを希望されたのです。その背景には、理由は定かではありませんが、手術・放射線療法・化学療法は断固受け入れないという強い意志がありました。
その方が治療を開始してから3年を経過しています。治療開始時に見られた左乳腺の径20㎜弱の乳がんは徐々に縮小し続けており、今にも消失しそうな状況になっています。この方は他のがん治療は全く受けていないのでがん遺伝子治療が早期がんに対して著効している極めて貴重な症例として管理を継続しています。
がん遺子伝治療により、末期がんの方を完全に治すことは確かに果たせていません。しかし、がん遺伝子治療は、副作用が一時的な発熱や倦怠感などに限られ、末期がんの方にも一定の効果は認められます。そもそも状態が非常に厳しい末期がんの方が主たる治療対象となっているので、がん遺伝子治療が効かないのか、治療法に改善の余地があるのか、悩ましい部分があります。治療薬の投与量や投与頻度を増やすことができれば、末期がんの方に対してもさらに治療効果を高められるかもしれません。
現に、早期がんの一例は、がんが確実に縮小していますし、進行がん(末期がんではない)で遺伝子治療により病状がコントロールできている方が複数いらっしゃいます。
標準治療で根治できる早期がんの方にがん遺伝子治療を勧めるのは不適切と考えますが、例えば進行がんの手術をした後、再発予防のために化学療法を継続しなければいけない患者さんにとっては、このがん遺伝子治療を受ける意義は大きいのではないでしょうか。
抗がん剤を服用し続けなければいけない状態であるならば、さらに副作用の少ないがん遺伝子治療を補完治療として利用することにより、再発の可能性を低くすることができると考えられます。
がん遺伝子治療をadjuvant therapy(補助療法)として一次的治療(手術、放射線治療など)のあとに実施することで、再発を完全に抑えることを期待しています。