近未来のがん治療ープレシジョンメディシン、光免疫療法、CDC6 RNAi 療法などcancergenetherapy
precision medicine (プレシジョンメディシン:精密医療)
最先端医療においては、次世代シーケンサーと呼ばれる最新機器によりがん細胞内の変異した遺伝子を突き止めて最適な治療薬を選ぶ手法が開拓されつつあります。この手法では、原因となる遺伝子を持つがん細胞をピンポイントで狙うことが出来るため、治療効果は大きく副作用は少なくなることが期待されます。精密かつ的確な治療が実施できることから、precision medicine (プレシジョンメディシン:精密医療) と称され大変期待されています。また、将来はがんの全遺伝子情報( ゲノム)を完全に読み取ることを目指しており、その解析に基づいた医療を「ゲノムがん 診療」としてがんセンターを中心に国家的プロジェクトが組まれています(スクラムジャパン)。
プレシジョンメディシンは大きく期待される医療ですが、まだ全てのがんの遺伝子解析が成されているわけではないので、現時点では適切に対応する治療薬が限られています。 今後は遺伝子変化に対応する薬剤が急ピッチで開発されると思われますが、現状では遺伝子の変化は読み取れたけれど、それに対する適切な反応薬が選択できない、という悲劇も生まれています。また、適切な治療薬がマッチングできても副作用が全く無いというわけではありません。
プレシジョンメデシンが本当の意味での革命的治療になるためには、同定される遺伝子変異全てに対応する薬剤が作られること、その薬剤を使用しても副作用が 全くないことが必要になるでしょう。
免疫療法
免疫療法においても革命的な進歩が見られます。まずは、最近、メディアでさかんに取り上げられている免疫チェックポイント阻害剤です。
今までの免疫療法は、免疫細胞ががん細胞をいかにして攻撃するかということに注力してきました。しかし、免疫細胞の数を増やしたり、がんに攻撃の目印をつけたり、がんへ の攻撃効果を高める工夫をしてもなかなか治療効果が得られませんでした。がん細胞は、免疫の本来の性質を巧みに利用して、免疫細胞が容易に攻撃できないようにしていたのです。がんが免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みの一つが免疫チェックポイントへの作用でした。がんは免疫チェックポイントに作用することにより、免疫細胞の攻撃にブレ ーキをかけ、攻撃のエンジンスイッチを切っていたのです。その、ブレーキを外し攻撃のエンジンスイッチを入れ直す薬剤として開発されたのが免疫チェックポイント阻害剤でした。免疫チェックポイント分子を発見した科学者の一人は京都大学の本庶佑教授でノーベル賞の有力候補と言われています。
注目を集める免疫療法は他にもあります。それは、「遺伝子改変T細胞療法」と呼ばれ るもので、免疫細胞のT細胞を患者から取り出し、それにがん細胞と接触すると活性化 して増殖する機能を遺伝子操作により組み込んだ上、そのT細胞を増殖させて患者の体内に戻す手法です。それにより、いわば免疫のアクセルが踏まれっぱなしになり、がん細胞が消滅するまでそのT細胞は増殖します。がんを見つけるセンサーとしてキメラ抗原受容 体(CAR)を用いる方法はCAR-T細胞療法と呼ばれ、新潟大学の今井千速准教授らが論文 発表したものをスイスの大手製薬会社が実用化し、現在一部の白血病に対する有効な治療法として米国で承認を受けています。
しかし、これらの治療法にもまだまだ課題があります。免疫チェックポイント阻害剤は 、それこそプレシジョンメディシンで謳われている対応する遺伝子解析ができていません 。治療効果があるのは投与された患者さんの2~3割で、効果があっても延命効果は数か月と言われています。また、白血病には劇的に効いているCAR-T細胞療法は、胃がん、肺が ん、大腸がんなど多くのがんが当てはまる「固形がん」には効果が薄いとされています。 そして、両者ともに免疫が暴走することによる未知の副作用のリスクが避けられません。
また、治療費が極めて高額(免疫チェックポイント阻害剤は年間1,500万円、CAR-T療法 は5,000万円超)です。
光免疫療法
これは、米国の研究機関NIHに所属する小林医師が開発したものです。特殊な抗体をがん細胞に付着させてそれに対して近赤外線を当てると、がん細胞の被膜に穴が開き、浸透圧の影響を受けてがんが破裂消滅するというものです。がん治療に応用されるには、全てのがんに反応する抗体を作らなければいけないこと、近赤外線が届かない所に存在するがん細 胞への治療法をどうするかなど、この治療にも課題はあると思われますが、極めて画期的で有効な治療として大きな注目を浴びています。楽天の三木谷社長が開発の援助に手を差し伸べているという点も興味深い点です。
CDC6 RNAi 療法
このようにさまざまながん治療が急速に台頭する中で、CDC6 RNAi 療法の意味するとこ ろは益々大きくなると考えています。CDC 6RNAi 療法もターゲットとなるCDC6遺伝子の変異を同定することができれば、まさに究極のプレシジョンメディシンとして君臨する可能性があります。まず、問題となる副作用がないことが分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などと比較しても優位な点です。単位投与当たりの薬剤力価が今後更に高まることも予定されており、がんに対するさらに強力な治療薬として君臨することが期待されます。
また、光免疫療法で用いる近赤外線が届かない隠れたがん細胞やがん幹細胞に対してもCDC6 RNAi 療法は反応が期待できます。
他の新たな治療薬の進化に呼応してCDC6 RNAi 療法も更なる飛躍を遂げる日が近いと感じています。